Xプライズ財団とシンギュラリティ大学の創設者とフロー・ゲノム・プロジェクトの創設者が突き抜ける起業家について書いた本
本書には意欲や能力を本気で高め、とびきり壮大な志を抱き、世界に影響を与えるための方法が書いてある。
一つはっきりさせておこう。 スティーブ・ジョブズが「あらゆる起業家の目標は、宇宙にへこみをつけることだ」と言ったとき、念頭に置いていたのは「アングリーバード」の類いではなかった。
本書は宇宙に巨大なへこみをつくろうとする人のために書いた。 エクスポネンシャル・テクノロジーが与えてくれた力によって、今では誰もが巨大なへこみをつくれるようになった。
はっきり言って、ぐずぐずしているヒマはないのだ。
テクノロジー
エクスポネンシャルなテクノロジー
- デジタル = エクスポネンシャルテクノロジー
あるプロセスや製品が物理的なものからデジタルなものへ変化すると、エクスポネンシャルな力を帯びる。
ガートナーのハイプ・サイクルを意識する
技術がいつ「幻滅の谷」を抜け、「啓蒙の坂」を上りはじめるかを見分けることは、起業家にとってきわめて重要である
- パソコンですら幻滅期があった
パソコンの例を見てみよう。 1960年代末、作家スチュワート・ブランド(「パーソナル・コンピューター」という表現を初めて考案した)らがパソコンという概念を口にしはじめた頃には、「これで世界を変えよう」という熱に浮かされたような空気があった。
だが実際に初のパソコンが登場してみると、たいていの人にはゲームをするぐらいしか使い道がなかった。これこそ幻滅の谷であり、文化的潜行の最たる例である。
- UIの変化を起業家参入の目安にする
私が最も重要な指標と見ているのは、シンプルで洗練されたユーザー・インターフェースの登場である。これをきっかけに人と技術との相互作用が容易になり、技術がオタクの手を離れて起業家の手に渡るのである。
モザイクによってインターネットが解き放たれた。グラフィックスを追加し、UNIXをウィンドウズ(当時は世界のコンピューターOS市場で80%のシェアを握っていた)に置き換えたことで、科学者、技術者、軍事関係者向けに開発された技術を 一般大衆化した。
これから世界を変えるテクノロジー
目端が利く起業家には、インターネット並みの事業機会が五指にあまるほどある
1. ネットワークとセンサー
セキュリティー関連のセンサーも急激に台頭している。今日普及している監視カメラは、1億2000万もの顔画像を保存したデータベースと結びついており、警察にかつてないほどの捜査能力を付与している。センサーはトラブルに目を光らせるだけではない。耳を澄ませることもできる。たとえば「ショットスポッター」だ (注3) 。これは銃声感知技術で、街中に張り巡らされた音響センサーのネットワークからデータを集め、銃声を識別するアルゴリズムでデータをフィルタリングし、三角測量によって現場を3メートルの範囲に絞りこんで警察に直接報告する。ショットスポッターは全般的に一般市民の通報より正確で信頼性が高いことが判明している。
2. 無限コンピューティング
無限コンピューティングによって失敗するコストがタダになり、その結果、試行錯誤が大衆化した。当然伴うであろう時間やリソースの無駄を恐れて大胆なアイデアを却下しなくてよくなり、今ではなんでも試してみることができるようになった。
3. 人工知能
AIは突き詰めると「究極のユーザー・インターフェース」である、という事実を思い起こしてほしい。あらゆるエクスポネンシャル技術を大衆化し、われわれ全員にトニー・スタークのような能力を与えてくれるのだ。
4. ロボティクス
- 人間がやりたくない仕事こそロボットが行う価値がある
私が途方もない価値を生み出そうとするエクスポネンシャル起業家なら、人間が最もやりたくない仕事に目を向けるだろう。(中略)世界的に非熟練労働の価値が数兆ドルに達することを考えれば、これは途方もない機会と言える
5. 合成生物学
超高速な配列決定を可能にするロボティクス、ペタバイト単位の生の遺伝データを解読するAIや機械学習、そうしたデータを伝送、処理、保存できるクラウド・コンピューティング、そして老化した幹細胞の劣化したゲノムを修正・書き換えする合成生物学だ。それに新会社が提案する、豊かで長く健康な生活という価値を合わせてみよう。世界の65歳以上の高齢者の銀行口座には総額50兆ドル以上の資産が眠っている。どれだけ可能性がある事業かわかるだろう。
マインドセット
- マインドセットの重要性
今日のエクスポネンシャル起業家は(スティーブ・ジョブズの表現を借りれば)「宇宙にへこみをつくる」ための手段を十分すぎるほど手にしている
ただエクスポネンシャルの世界で腕試しをする前に踏んでおくべき最も重要なステップは、自分にはそれができるという確信を持つことだ。
高みを目指すのは、技術的に難しいというだけではない。心理的にもきわめてハードルが高い。本書のためにインタビューしたイノベーターはみな口をそろえて、メンタルの重要さを指摘した。正しいマインドセットを持たない起業家が成功する見込みはゼロだと。
大きな目標を持つ
大きな目標ほど作業者を集中させ、粘り強くする。この結果、作業がより効率的になり、失敗しても再び挑戦しようという意欲が高まる
大きな目標を設定することは、集中力やモチベーションを高め、実際にこうした目標を達成するのに役立つ
小さな組織で挑む
- 創業期はチームが世間から隔離されていることでリスクテイクが助長され、大胆なアイデアが奨励され、組織の硬直に対抗できる
プロジェクトに何らかの関わりを持つ者の数は、悪意が感じられるほど限定すべし。
成功を目指す起業家は社会との間にバッファ(緩衝装置)を設ける必要がある。
真に画期的発明も、そうと認められる前日まではバカげたアイデアにすぎない」。バカげたアイデアに挑戦するというのは、専門家の意見に耳を貸さず、大きなリスクをとることだ。失敗を恐れないことである。なぜならおそらく失敗するからだ。突き抜けた成功に至る道は失敗で埋め尽くされている。だからリスクを制御し、失敗から学ぶ方法を身に着けるための戦略を持つことがきわめて重要となる。
アジャイル
「素早い反復」を簡潔かつざっくばらんに定義したのが、シリコンバレーの非公式なスローガン「早く、たくさん、前のめりに失敗する」だ。
失敗は恥ではない。通過儀礼だ。
経済的利益ではないモチベーション
私たちの心の奥に潜む自らの人生をコントロールしたい、能力を伸ばし、広げていきたい、目的のある人生を生きたいという欲求であることを、科学は示している。
計測可能にし、撤退基準を明確にする
「野心的プロジェクトに資金が集まらないのは、野心的すぎるからだと思われがちだが、実際は違う。資金が集まらないのは〝測定不能〟だからだ。投資をしたのに10年も鳴かず飛ばずという状況は誰だって避けたい。常に進歩していることを示せれば、賢い投資家はとんでもないアイデアにも乗ってくる」
フロー(ゾーン)に入るための17条件
環境的なトリガー
- 影響の大きさ
- リスクレベルを高める (背水の陣)
フローに到達するには、リスクテイクに意欲的でなければならない。
- 豊かな環境
- 新規性、予測不可能性、複雑性の3つがそろった環境に身を置く
- 没入
心理的なトリガー
- 明確な目標
- 「明確さ」に徹底的に拘る
- 目標に対するサブゴールを明確なタスクレベルまで落として迷いをなくす
- 即時フィードバック
- 難易度と能力のバランス
社会的なトリガー
- チーム全体でフロー状態に入るグループフローのための要素
- 本気で何かに集中すること
- 明確な目標の共有
- 良好なコミュニケーション
- 平等な参加
- 心理的・身体的リスクの存在
- 親密さ
- 自我の融和
- コントロール感
- 対話 (発言するときは常に「たしかにそうだね、それに…」出始める)
創造的なトリガー
- パターン認識とリスクテイク
ピーターの法則
- 専門家になるな
ヘンリー・フォードは自社の従業員の資質について聞かれたとき、的確な指摘をしている。 「わが社の従業員には〝専門家〟は一人もいない。不幸にも自分を専門家だと思う人間がいたら、できるだけ早く排除しなければならない。というのも仕事を本当によくわかっている人間は、自分を専門家だとは思わないからだ。仕事がよくわかっていると、改善すべきことが山ほど見えてくるので、常に向上しようとするし、一秒たりとも自分が優秀で効率的だなどとは考えたりしない。常に先を読み、もっとうまくやろうと考えていると、不可能なことは何もないという心境に達する。だがひとたび自分を〝専門家〟だと思うと、いろいろなことが不可能に思えてくる」
情熱と目的を持つ
- 情熱と目的に重きを置くイーロン・マスク
「ロケット事業、自動車事業、太陽光発電事業を始めたのは、大儲けできると思ったからじゃない。世界を変えるためには何かする必要がある、と思っただけだ。世界にインパクトを与えたかった。すでに存在するものより明らかに優れたものをつくりたかった」 本章に登場する他の起業家と同じように、マスクを突き動かすのも情熱と目的だ。なぜか。それは情熱と目的は規模の拡大につながるからだ。
5日連続午前2時まで働くという状況で努力し続けるには、自分の心の底から湧き上がる情熱が不可欠だ。 他人の目標のために、そんな努力を続けることはできない。自分自身のものでなければ。
起業のライフサイクルを考えてみると、たいていは楽観主義と情熱にあふれたスタートを切る。 そういう時期が半年ほど続くと、現実が見えてくる。 想定していたことの多くがまちがっており、ゴールは思っていたよりずっと遠いことがわかってくる。 多くの会社がスケールアップせず、消滅するのはこの時期だ
たやすいことではないが、友人からマイナスのフィードバックをもらうことが本当に需要だ。 どこがまちがっているのかを確認し、軌道修正するのに役立つようなフィードバックをできるだけ早期に受ける必要がある。 だがほとんどの人はこれをしない。 早めに軌道修正し、現実の状況に適応しようとしないのだ。
- ジェフ・ベゾス「流行ではなく、自らの情熱に注目すべき」
みんなが『きてる!』とわかっているもので成功するのはとても難しい。それより自分の立ち位置を決め、波が自分のほうにくるのを待ったほうがいい。次の質問は『立ち位置をどこに決めればいいんだ?』かもしれない。自分の好奇心をとらえて離さないもの、使命感を感じられるものによって決めればいい。僕は会社を買収するとき、常にこう自問するんだ。この会社のトップは使命感で動く人間か、それともカネで動く人間か、と。使命感で動く人間は、顧客が好きだから、製品あるいはサービスが好きだから、という理由で製品やサービスをつくる。一方、カネで動く人間はさっさと会社を売却して金儲けをするために製品やサービスをつくる。非常に逆説的ではあるのだが、結局は使命感で動く人間のほうがカネで動く人間よりも多くのカネを手にする。だから自分が情熱を感じられるものを選ぼう。それが私からの一番重要なアドバイスだ。
- いかに勢いを保つか
重要なのは勢いである。どんなプロジェクトについても言えることだが、一番危険なのは「良いアイデアがある」という段階から「そのアイデアを実現するために実際に何かをしている」という段階までに時間がかかりすぎ、その間に熱意がしぼんでしまうことだ。
確率論の思考法
- イーロン・マスク
「成功する確率がかなり低くても目的が本当に重要なものなら、それでも挑戦する価値はある。逆に目的がそれほど重要でなければ、成功の確率がはるかに高くなければ選ばない。僕がどのプロジェクトを選ぶかは、確率と目的の重要性の掛け合わせで決まる
不可能に対する健全な疑いを持つ
- ラリー・ペイジの思考法
よく口にする質問は「なぜダメなんだ?」「なぜもっと大きくやらないんだ?」
『不可能というものへの健全な疑いを持て』だった。以来、私はこの言葉を忘れたことがない。バカげたことを言うようだが、突き抜けるほど、前進するのは容易になる。そんなことをしようとする者はほかにいないので、競合はいない。しかも最高の人材が集まってくる。彼らは突き抜けた挑戦のために働きたいと思うからだ。こうした理由から、想像できることはたいてい実行可能だと私は信じるようになった。想像し、努力すればいいだけだ。
事例
イーロン・マスク
- ネットスケープに就職しようとしていたイーロン・マスク
「最初は会社をつくろうなどとは思っていなかった」とマスクは振り返る (注3) 。「ネットスケープに就職しようと思ったんだ。当時おもしろそうな会社といえば、そこしかなかったからね。履歴書を送り、わざわざロビーにも行ってみたが、結局気後れして誰にも話しかけられず、仕事のオファーも来なかった。最終的に『ネットスケープなどクソ食らえだ』と割り切り、自分でコードを書きはじめてジップ2を創業したんだ。
ラリー・ペイジ
- グーグルのサービスを作る基準「歯ブラシテスト」
グーグルはどうやって取り組むことを決めているのか。本当にやるべき重要な仕事はどうやって見きわめているのか。私は「歯ブラシテスト」という言葉をよく使う。歯ブラシテストは簡単だ。 「このサービスを使う頻度は、歯ブラシを使う頻度より高いか」と自問するのである。たいていの人は1日に2回歯磨きをする。グーグルはそういうモノが大好きだ。
誰もがしょっちゅう使うものは本当に重要であり、時間がたつにつれて収益化していく