以下、個人的に印象に残った部分を要約しつつメモ
ネットスケープの歴史
ブラウザの発明とvs Microsoft
- 世界初のブラウザ モザイクの有料販売を中心としたビジネスモデルで歴史的な上場
- MicrosoftがWindows 95にIEを無料バンドルするという戦略を打ち出し、モザイクの有料販売のビジネスモデルが破壊された
- 一方でネットスケープは独自発明したSSLを搭載したWebサーバーの販売も行っていた
- しかし、WebサーバーもMicrosoftの新製品IISがセキュリティ機能が同等かつ処理速度が5倍速かった
- そこで性能で勝負するのではなくメールサーバーやDBの会社を2社買収し、Microsoftと同じサービスを数百分の1の料金で打ち出して少しは持ちこたえた
- しかし本質的な解決にはならず、ネットスケープはAOLに会社を売却し、Developer Communityに対して提供する規格をインターネット、JavaScript、SSL、Cookieなどのネットスケープが推進する規格とした
- この結果、Developer Communityを獲得できなかった Microsoftの独自通信規格は衰退した
クラウドの発明からMAでExit
- AOLのeコマース事業を運営する中で「パートナー企業のサイトをAOLプラットフォームに接続すると大量のトラフィックが流れ込みパートナー企業のサイトが落ちてしまう」という問題に気づいた
- そこで落ちないインフラを提供する「コンピューティング・クラウド」の構想を思いつき、新会社ラウドクラウドを創業した
- マーク・アンドリーセンの知名度と実績もあり、6600万ドルの評価額で資金調達し、ベン・ホロウィッツがCEOについた
- しかし、短期間のクラウドサービスの開発と急増するUserへの対応で巨額の調達資金をほぼ全額使ってしまっていたタイミングでドットコムバブルの崩壊
- VCや個人投資家を周り資金を集めようとしたが集まらず、バブル崩壊直後にも関わらず上場して資金調達するという一手に出た (メディアからは地獄からのIPOとこきおろされた)
- 無事上場して評価額は当初より下がったが資金を確保、倒産を免れたがドットコムバブル崩壊により顧客であるIT企業が壊滅状態、一番の太客企業が倒産してクラウド事業は詰みの状態になった
- なんとかクラウドコンピューティング事業を買ってくれる先(EBS)を見つけ、事業を売却して資金を確保。そのままEBS向けにデータセンターの管理ソフトを提供するソフトウェア会社オプスウェアに生まれ変わった
- オプスウェアも売上の9割を占めるEBSが解約になりそうになったり、競合にやられそうになって製品の質を急ピッチで上げたり、マーク・アンドリーセンが別会社を始めることになったりと危機の連続だった
- それらの危機をなんとか乗り越えて売上が回復してきたところに仮想化テクノロジーがブームになり、それに乗じて買収オファーが多く来るようになった
- 最終的にはHPに16.5億ドルで会社を売却した
- その後、この苦闘の経験から創業者の経験値を補う「スタートアップ経営経験者集団VC」としてa16zを始める
ビジネスパートナーに必要な適度な緊張感
マークと私が3社、18年にわたって共同経営を続けてこられた秘密は何か、とよく尋ねられる。
ビジネス上の関係は、緊張が強すぎて長続きしないか、緊張がなさすぎてわざわざ続けていく必要がなくなってしまうか、どちらかに終わることが多い。 ビジネスパートナーはお互いに批判が厳しすぎて嫌い合うようになってしまうか、互いの意見を気に留めず、パートナーであることに意味がなくなってしまうかしがちだ。
18年経った今でも、マークは毎日のように私の考え方に誤りを見つけて私を当惑させる。しかし、私もマークに対して同じことをしている。我々にとってこれが実に効果的なのだ。
CEOとしてのスキルを伸ばす方法
- CEOとして会社を経営する道のりにある多くの障害は経験とスキルが有れば予見でき、避けられる
- CEOとしてのスキルは会社を経営することでしか身につかない
役立つ唯一の経験は、会社を経営することだ。どんなスキルが必要とされるのかも、そのスキルを自分が持っているかどうかも事前には分からない。
- CEOはスキルが足りなくて当たり前
CEOとして自らを鍛え上げるために必要なのは「不自然さに耐える」ことだ。
もしあなたがCEOとして無能だと感じ、一体何をしていいか分からないと感じるならCEOクラブへようこそ。
誰もがその恐怖を抱くのだ。避けて通れないプロセスなのだ。
それこそがCEOがつくられるプロセスだ。
決断する勇気の重要性
例えば1人がCEOでもう1人が社長というような組み合わせとなることがある。 すると会話はこんなふうに始まる。
「この会社の責任者は誰だね?」「我々2人です」
「最後の決定は誰がする?」「我々2人です」
「そういうやり方で今後もやっていくつもりなのかい?」 「ずっとこのやり方でいきます」
「すると、君たちの社員は誰が最終的な決断を下すのか分からず、仕事が非常にやりにくくなるわけだが、それでいいというのだね?」
最終決定者が2人の場合より1人の場合のほうが、社員にとって楽だというのはわかりきった理屈ではないだろうか。 残念ながら「明白にして実在する」圧力が、会社を正しく運営することを妨げる場合があまりにも多い。誰が最終決定権を持つのか創業者たちが決める勇気を持てないでいる間に、社員はどんな決定にも二重の承認を得なければならないという不便を被る。
それどころか、会社の規模が大きくなればなるほどこうした意思決定の二重性は危険なものになる。
銀の弾丸を探さない
- 競合のより良い製品によって自社の製品が売れなくなった時、「〇〇に特化する」「〇〇として打ち出す」などの差別化を図りたくなる。
- 差別化さえすれば解決する、銀の弾丸があるように見えてしまう。
- しかし、安易に差別化しても顧客のニーズに合っていなければ自滅するだけである。
- 逃げたくなる現実を直視し、泥臭く自社の製品を改善して競合のより良い製品と真っ向から勝負するしかないのだ。
顧客は製品を買っていた。 ただ、競合の製品を買い、我々の製品を買っていなかっただけだ。
今は方針を変えるときではない。
そこで私は、全員に同じことを言った。 「この困難を乗り切るのに、何にでも効く銀の弾丸はない。あるのは鉛の弾丸だけだ」。
社員にとっては聞きたくない話だったが、状況ははっきりした。 我々は、より良い製品をつくらなければならない。他に道はなかった。 我々は、正面玄関を通って、あの大きくて醜い邪魔物を相手にするしかなかった。鉛の弾丸を使って。
教育の重要性
多くのスタートアップが、社員は優秀なメンバーが揃っているので教育は必要ないと考えている。ばかげた話だ。
教育は、マネージャーにできる最も効果的な作業の一つだ。
正しい野心
- 経営幹部・上級社員は「自分よりもチームや会社の成功」を求めている「正しい野心」の持ち主でなくてはならない。自分の成長や成果を最優先している人物であってはならない。
- 一般社員の場合は、それぞれが独自に自分のキャリアパスの充実を考えていても良い。
幹部社員を採用する際には、誰しも頭の良さを必要な資質とする。
特にスタートアップは100%頭の良さだけで採用を決めがちだ。
ところが、非常に頭のいい人々の少なからぬ割合が「間違った野心」を持っている。
成功するCEOに必要な能力
0. 良い手が存在しない時に知力を尽くして最善の手を打つ能力
秘訣はない。 ただし、際立ったスキルが1つあるとすれば、良い手がないときに集中して最善の手を打つ能力だ。
逃げたり死んだりしてしまいたいと思う瞬間こそ、CEOとして最大の違いを見せられるときである。
1. ビジョンを描いて伝える力
- 興味深いビジョンを描き、それを伝えてメンバーをついてこさせられるか。
- 危機的状況でもそれができるか
ビジョナリー・リーダーとしてのジョブズのもっとも偉大な達成は、NeXTがビジネス上の失敗を長く続けたにもかかわらず、極めつけに優秀な社員たちを自分に従い続けさせたこと、また倒産まで数週間という危機に陥ったアップルで社員にビジョンを信じさせたことだと思う。
2. 正しい野心
- 自分よりもメンバーを優先する心
ひどい誤解のひとつは、CEOになるためには利己的、冷酷、非情な人間でなければならないというものだ。
実際はそれとはまったく逆だ。CEOとして成功するには、第一に人々がCEOのために働きたいと思うような人間でなければならない。
賢明な人々は自分たちの利益に心を配らないような人間のために働こうとは思わないものだ。
真に偉大なリーダーは周囲に「この人は自分のことより部下のことを優先して考えている」と感じさせる雰囲気をつくり出すものだ。
こうした雰囲気は驚くべき効果を上げる。
ビル・キャンベルは社員のために自らの給与、名声、栄光などの全てを犠牲にすることをためらわなかった。
3. ビジョンを現実化する力
- 純粋な経営能力
社員がリーダーのビジョンを理解し、リーダーが自分たちのことを気づかっていると信じたとしよう。
最後の問題は、そのリーダーがビジョンを実現する能力があるかどうかだ。
小ネタ・事例
ベン・ホロウィッツのネットスケープ参加の経緯
- ベン・ホロウィッツ氏は学生時代、シリコングラフィックスでエンジニアインターンをしていた
- 次の会社で同僚からモザイクブラウザを見せてもらい、インターネットが未来だと確信した
- その数カ月後にシリコングラフィックスの創業者とマーク・アンドリーセンがネットスケープを共同創業したという記事を読み、面接にApplyした
情報スーパーハイウェイとインターネット
- 1995年頃は、世界中がネットワークで繋がるのは必然だが、そのネットワーク規格はオラクルやMicrosoftの独自規格を用いた情報スーパーハイウェイだろうと考えられていた。
- ビル・ゲイツやラリー・エリソンらのビジョンでは情報スーパーハイウェイを制した企業は通行税を取り立てられるとされていた。
- Openなネットワーク規格を信じるネットスケープのマーク・アンドリーセンですらビデオの通信規格は企業の独自規格になるのではと考えていたほどだった。
ブラウザの機能、セキュリティ、UIを改善していけばインターネットが未来になると我々が確信したのはかなり後のことだった。
企業文化の例: Amazonのドアの板で作ったデスク
- ジェフ・ベゾスの徹底した倹約を感じられるエピソード
ジェフ・ベゾスは、Amazon.comをスタートさせた直後から、この会社は「顧客に価値を届けることで収益を上げるべきであり、顧客から金を搾り取ることによって収益を上げるべきではない」というビジョンを抱いていた。 顧客に最大限の価値を届けるためには価格の安さでもカスタマーサービスでもトップレベルにならなくてはならず、資金の無駄遣いは致命的だと考えていた。 ベゾスは長年にわたって口やかましく支出を検査し、浪費した者を見つけるたびにホームセンターからドアを買ってこさせ、脚を釘付けにして作らせたデスクで仕事をさせた。
企業文化の例: Facebookのモットー
- ザッカーバーグのスピードに対する異常なまでのこだわりが感じられるエピソード
- Facebookではインターン生にいきなりFacebook本体のコードをいじらせて「ぶっ壊してもいいから改善しろ」とタスクを振るらしい
Facebookの初期の時代に、ザッカーバーグは「何を壊してもいいから全速力で進め」というショッキングなモットーを掲げた。
CEOが「何を壊してもいい」と言うなんて本気だろうか?
このモットーは、すべての社員に立ち止まって考えさせるだけの衝撃力があった。
a16zの由来
- i18nを命名した時のことを思い出してa16zとしたというエピソード
しかし、「アンドリーセン・ホロウィッツ(AndreessenHorowitz)」という長い名前ではURLをタイプするのが恐ろしく面倒だろう。 そこで思い出したのが、コンピュータ言語が内部的に国際化をサポートする前によく使われた略語だった。 プログラムを別言語で作動させようとすれば、プログラマーは手作業でコードを国際化(internationalization)しなければならなかった。 我々は単語の始めと終わりの文字を取って「i18n」と略した。iの文字のあとに18文字続いて最後がnの文字という意味だ。 そこでわれわれはアンドリーセン・ホロウィッツの愛称を「a16z」とすることにした。
所感
- 格好良い経営ノウハウ本ではなく、CEOの弱音とお悩み何でも相談本
- 実際に規模を拡大するスタートアップを経営する中で出てくる赤裸々な悩みがほぼ網羅されているのではというほど充実しているため、読み返すたびに学びがある本だと感じた
- インターネット創世記の話が多く、「ブラウザのセキュリティとUXを上げてインターネットを普及させる」「情報スーパーハイウェイ vs インターネット」「Developer Communityの獲得」という話は2022年現在のWeb3文脈で話されているwalletのUXやPublic Blockchainの未来の話にリンクすると感じ、非常に面白かった
- 「正しい野心を持つ人材を経営メンバーにする」という話は個人的には一番刺さった。向上心のあるスタートアッパーほど自身の成長を求める傾向はあるはずなので、そこのバランスをどう取るのか。自身のスキルアップは完了しているシニア人材などを採用するのが良いのか。などを考えるきっかけになった。