マネジメント界の伝説的名著と呼ばれるAndrew Grove氏のHIGH OUTPUT MANAGEMENTを読んだ。 以下、個人的に印象に残った部分を要約しつつメモ
生産の基本原理
limiting stepに着目し、工程をoffsetする
カギとなる大切な考え方は、limiting step(最も長い、最も困難な、最も要注意の、または最も費用のかかるステップ)から生産の流れを組み立てて、逆に考えてゆくという点である。
limiting stepを中心に流れを計画し、他のステップはそれぞれの処理時間に応じてずらす。 これを、生産関係の専門用語では〝offset(相殺・相互埋合わせ・調整)〟したという。
早期の問題発見が重要
どんな生産の流れでも生産物はプロセスを通っていくにつれて次第に価値が高くなる。 注意するべきことは、どのような問題にしても、生産プロセスの中で、できる限り"価値が最低"の段階で問題を発見して解決すべきだということである。
生産性を高めるための方法
生産性はそのOutputを生み出すのに必要とされた労働力でOutputを割ったものである。
生産性を上げる方法は2つである。
1つ目の方法は、“より速く"行うことである。そのためには作業域を再編成するか、単にもっと精を出すほかない。
2つ目の方法は、遂行する仕事の"性質を変える"ことである。活動に対するOutputの率を上げることでOutputを向上させる方法を考えるのである。 つまり、“レバレッジ"を最大化させるということである。
このための方法は"オートメーション"と"作業簡素化"の2つである。 オートメーションは機械による作業の自動化、より施設を効率的に利用するなどである。 作業簡素化は、そもそもプロセス自体をなくしてしまえないかを考えることである。簡素化を実施する際に必要なのは、それぞれのステップが"なぜ"必要なのかを自問自答してみることである。
チーム・ゲーム
マネージャーのOutputとは
- マネージャーのOutputは当人のOutputではなく、影響下のチームのOutputである。
なぜこうなるのか。ビジネスにしても教育にしても科学にしても、仕事は"チームでやるもの"だからである。
マネジャーも、自分「自身」の仕事や自分個人の仕事をやり、これをよくやりこなすだろうが、これは当人のアウトプットとはならない。
何人かの部下や、自分の影響下にあるグループがいれば、そのマネジャーのアウトプットは、部下、あるいは影響下にある仲間たちが創出するアウトプットで測定しなければならない。
マネジャーのアウトプットとは、監督下にあるグループ、あるいは影響力下にあるグループが遂行した成果だということである。
マネジャー自身の仕事がきわめて重要なのは明らかであるが、それ自体はアウトプットをつくり出していない。その組織がつくり出しているのだ。
- 取るに足りない、意味のない、重要でないと思えるような仕事を行うのがマネージャー
実際にしていることのほとんどはあまり重要とも思えないので、ビジネス内での自分の位置の明確化や正当化はなかなかしにくい。
こうした問題が発生する理由のひとつは、われわれの活動(実際に行なうこと)とアウトプット(達成するもの)との間にはっきりと相違があるからである。
後者は重要で有意義で価値があるように思える。前者は取るに足らない、意味のない、雑然としたものに見られがちである。
マネージャーの4つの仕事
- マネージャーの仕事は4つに分類できる
1. 情報収集
最も役に立つ情報はたまたま交わす、ちょっとした会話の中にこそある。
このタイプの情報は文字で書かれたものよりもはるかに速くマネージャーの耳に届く。情報はタイムリーであればあるほどその価値は高くなる。
情報を入手する特に効率が良い方法で、ほとんどのマネージャーが見逃しているものがある。
それは社内の状況を直接見て回ることである。
2. 意思決定
決定は2種類に分けられることだけを言っておきたい。
ひとつは、前向きの決定、たとえば大型支出の許可プロセスなどの場合である。 つまり、会社の財務資源をいろいろな将来の事業計画に向けて配分するときのようなものである。
もうひとつのタイプは、大きくなりつつある問題や危機に対応する決定で、技術的なもの(たとえば、品質管理問題)か、人事に関するもの(退職しようとする人の慰留)のいずれかである。
3. ナッジング(部下の背中を押すこと)
ナッジングはマネジャーが行う重要な活動であり、明確な指令となる意思決定とは区別しなければならない。 ナッジングでは、マネージャーは自分として望ましい解決の仕方を主張はするが、指示や命令を出しているわけではない。 しかし、単に情報を伝えるというよりは強いことである。
4. ロールモデルとなる
マネジャー自身の時間は、誰もが絶対に有限な形でしか持っていない。 したがって、その割当てと使用に相当の注意を払わなければならないのである。 自分自身の時間をどう扱うかは、役割モデル兼リーダーであるということの最も重要な側面である、と私は考える。
マネージャーが仕事をする場はミーティングである
情報収集、意思決定、ナッジング、ロールモデルのうち、ミーティング以外で実施できるものはない。 ミーティングこそ、マネージャーとして活動する機会を提供しているのである。
ミーティングの心得
必ずメモを書き込まなければならない。
私もほとんどあらゆる状況でメモを取るが、それを見直すことはまずない。
メモを取るのは気持ちが散漫になるのを引き締め、見聞した情報を消化する助けとするためである。
アウトラインが載った紙にメモしようとすれば、勢い情報を論理的に分類せざるをえない。 それが、情報の吸収に役立つ。
良いミーティングの特徴の1つは、聞き手が質問をしたり意見を述べたりして積極的に参加することである。
説明者の目を避けたり、あくびをしたり、新聞を読んだりする人間などは、その場にいないほうがマシである。
意思決定のため召集するミーティングは、出席者が6,7人以上になると、スムーズに動かなくなることを忘れてはならない。 8人が絶対に打ち切るべき上限である。 意思決定は見るスポーツではない。見物人はやることの邪魔になる。
チームの意思決定の原則
その問題の関係者は誰もがそのグループによってなされた意思決定に完全な支持をしなければならない。 これは、必ずしも全員の同意を取り付けることを意味しない。
組織というものは、あらゆる事柄についていつでも全員の同意を得ることで存続しているのではない。
意思決定とビジネス上の動きを支持することを約束する人々によって、組織は存続しているのである。 マネジャーが期待できることは、支持するという約束が正直に表明されていることだけである。
知識パワーを持つ人と地位パワーを持つ人の垣根をなくす
あるジャーナリストが私にこう訪ねたことがある。 「グローブさん、たとえば、御社では服装が自由だとか、個室の代わりに大部屋を間切りして使うとか、指定駐車場などの優遇措置がないということですが、こういうことは、平等主義をいわば目に見える形で強調しているというよりも、うわべだけのことじゃないですか」と。
それに対して私は、これは見せかけの形式の問題ではなくて、組織存続のための問題なのですと答えた。
われわれのビジネスでは、毎日、知識パワーを持つ人々と地位パワーを持つ人々を結びつけなければならない。 彼らが一緒になって向こう何年もの将来にわたってわれわれに影響する意思決定をする。 もし、正しい意思決定を得られるようにエンジニアたちとマネジャーたちを結びつけてなければ、われわれの業界では成功できない。
何を委譲するか
自身がよく精通していることのモニタリングは容易なので、自身が一番良く知っている仕事を委譲するべきである。
部下のパフォーマンスを引き出す
パフォーマンスを引き出すための2つの方法
人が仕事をしていないとき、その理由は2つしかない。 単にそれができないのか、やろうとしないかのいずれかである。 つまり、能力がないか、意欲がないかのいずれかである。
どちらかを決めるのに、簡単なメンタル・テストを用いることができる。 その仕事に生活がかかっているとすれば、それができるか。 答えが「イエス」ということであれば、本人はやる気がないのである。 答えが「ノー」であれば、これは能力がないということになる。
マネージャーが部下のパフォーマンスを上げる方法は、“訓練”(スキル)と"動機付け”(モチベーション) である。
訓練
- 部下のスキルの習熟度によってマネジメントの方法を変える
モチベーション
- マズローの欲求5段階説の「自己実現への欲求」の段階にいかに部下を引き上げの「自己実現への欲求」の段階にいかに部下を引き上げるかを考える理解する。
他の欲求は欲求の充足とともに消えてしまうのに対して、自己実現への欲求だけは、より高い水準へと人を推し進め続けるものである。
この内面的な力は2つある。“能力"に突き動かされるか、“達成意欲"に駆られるかである。 能力に動かされる状態というのは、仕事または技能に以前よりもより熟達することを目指して努力している状態である。 達成意欲に駆られる状態というのは自分の能力の限界いっぱいのところに挑戦したいという欲求である。
所感
- 1984年に書かれたとは思えないほど、全く色褪せない内容だと思った。
- 「部下の評価の仕方」「部下が辞めるといった時どうするか」など非常に具体的な内容についても書かれており、業務を行う中で読み直すたびに学びがある本だと感じた。
- 本書の中で何度も"日本企業"が例に出されており、当時の日本の存在感を感じた。