堀江貴文氏がエッジ代表時代の2003年に書いた初の著書
オン・ザ・エッジの起業
「ホームページを作って会社案内の代わりにしませんか?」 この営業トークで先進的っぽい会社を回ってみると、かなり評判がよい。私はホームページ制作とサーバ管理、企画、営業をかけ持ち、猛烈な忙しさになった。それからの1年間で相当数のウェプを作ったように思う。 会社に泊まり込んだりと、かなりのハードワークだったが、全く苦にならなかった。 自分の能力を存分に生かせる仕事で、お金も稼ぎ、いくつかのメディア取材にも対応したりと、まさに大活躍だった。 ウェプに出合ってから、1年以上たち、私の仕事はますます膨張していた。 アルバイトの学生もかき集めてきて、インターネットの仕事をしているグループの面接まで担当するようになっていた。 ますます世の中のインターネットに対する興味が広がってきており、私の思った通りの世の中になりそうな予感があった。
そんなとき、プロジェクトを立ち上げた副社長が親会社に帰ることになった。代わりに別の会社から課長をヘッドハンティングしてきたという。インターネットの仕事をやるグループは課として独立し、1つの事業を担うことになった。 しかしネットで先行しているアメリカの状況を知っていた私は、そんな生半可なことではなく、会社全体をネットに特化させないとダメだと思った。 某大手証券会社出身の当時の同僚が「ネットスケープ社」の株を買わないか、と言ってきた。 彼は技術を学ぶためにこの会社にいるだけで、来年には独立して会社を作るという。 彼の元同僚は、起業して3年で10億の売上の会社を作ったそうだ。 ネットスケープとは、あの「モザイク」というブラウザを開発した、私と大して年の変わらない、マーク・アンドリーセンという若者が作ったという。上場して、その株にはとんでもない値段が付いていた。 全く考えたこともない世界だった。普通に就職するつもりはなかったし、会社設立には興味はあったが、上場とか売上10億なんて想像の範囲外だった。でも何となくワクワク感があった。 自分のやっているインターネットの事業にも無限の将来性を感じた。生来の、ライバルには負けないぞ!という挑戦する気持ちがふつふつとわいてきた。 まず、仕事で知り合った人からフリーランスの立場で仕事をもらってみた。たったの2週間で80万円もの仕事をこなすことができた。『有限会社の作り方』という書籍を本屋で買い、知人に無理を言ってお金を借りた。その一部を出資してくれる人もいた。 いよいよ準備も軽い、バイトしていた会社の社長に「会社を作ります」と伝えた。バイトとしては破格の月70万円の給料を提示されたが、断った。出資も断った。さあ、後には引けなくなった。 1カ月後の1996年4月、港区六本木に資本金600万円で「有限会社オン・ザ・エッヂ」は設立された。たった7畳しかない雑居ビルの小部屋に、中古のパソコン、リサイクルショップで買ってきた家具での門出だった。まだインターネットの専用線は間に合わず、ダイヤルアップネット接続でのゆっくりとしたスタートだった。
「会社は株主のため」をシンプルに考えるための株式配布
「株主利益とは何か」 「会社が儲かって株価が上がり、配当がたくさん出せるということである」 「会社が儲かるというのはどういうことか」 「会社の商品・サービスがたくさん売れるということである」 「なぜ売れるのか」 「よい商品・サービスで顧客(エンドユーザー)に喜んでいただいているからである」 「なぜ買っていただける顧客が存在するのか」 「社会全体の景気が良くなり、人々が消費行動や投資行動に走るからである」
といった具合に、1つの目標だけを考え、それを実現するためにどのようなが上がり、を順を追って考えていけばいい。 複雑に考えると、会社は従業員のためとか、顧客のためとか、社会のためとか、そういった利益相反しそうな要素を考えてしまう。 どれにプライオリティを置けばいいのか焦点がずれてしまい、結果としてどの要素も中途半端になる。 そして会社がうまく回らなくなってしまうのだ。
従業員持株会のような組織は、従業員を株主にすることで、「株主のため」という概念をシンプルに考えやすくする。 顧客や取引先に株主になってもらうのも同様である。最終的には、インベスター=株主と、カスタマー=エンドユーザーの2つの要素を併せ持つ「インベストマー」と呼ばれるようなユーザーを増やしていくことが、会社の経営を安定させる大きな要素になっていくと思われる。
処理能力の限界まで情報を集める
商売で大きく儲けるためには、情報力で他を出し抜くことである。 私の仕事時間の大半はこの情報収集につぎ込まれているといっても過言ではない。 儲けのネタは、いろんな情報の中に隠れているし、情報の組み合わせをすることにより、新たな商売のネタが見つかることも多い。
私が情報収集するメディアは既存メディアもネットメディアも限定はしない。 自分のキャパシティの限界まで、情報をできるだけ集めるようにしている。 先にも述べたが、将来的にはネット上でのメディアが主流になっていくだろうが、当面はハイブリッドな時代が続くだろう。 面倒くさいが、新聞には毎日目を通しているし、雑誌は週に何十話も読んでいる。 テレビなどもたまには見るようにしている。 大事なのは、自分ですべての媒体をチェックすること。 そして常に情報収集にかける時間を短縮する努力を続けることである。そうすれば、短縮した時間を使って、さらにカバーできる媒体を増やしていくことができる。 インターネット中心に情報が本格的に流通し始めると、さらに有象無象の情報が洪水のように流れ出してくる。 今まで以上のスピードを身に付けておかないと、確実に情報におぼれてしまう。 「情報武装」という言葉があるが、まさにその通りで、商売という戦場を確実に生き抜いていくためには情報武装は必須である。
商売の真髄はコストカット
コスト管理は商売の基本である。 商売をしているのに、ビジネスだ、経営だとカッコいい言葉でごまかしてしまうと、この基本をおろそかにしてしまいがちだ。
商売とは、モノやサービスを売って、その対価をもらうことである。 モノやサービスには原価がかかってくる。つまり売上の分だけ儲かるわけではなく、「売上マイナス原価」が儲けなのだ。 コスト管理はこの原価部分をコントロールして、できるだけ少なくすることである。 つまりコストをカットした分だけ儲けにつながる。 同じだけの儲けを売上を伸ばすことで達成しようとすれば、倍以上の労力を要することになってしまう。
商売をしていると、とかく売上を伸ばすことに目がいってしまいがちだが、商売の神髄は「コストカット」にある。 それも日々の細かいコストの見直しである。繰り返し繰り返し、日々行わなければならない地道な作業なのだ。
私の場合、一から会社を興したこともあって、コスト管理の考え方が染み付いてしまった。 立ち上げ当初は、とにかく資金繰りが厳しいから、できるだけ原価を削減しようとする。 最初に用意した家具は、リサイクルショップでそろえた机3つと椅子4つ、そしてソファーが1つ。冷蔵庫と棚、テーブルは自宅のものを調達した。パソコンも半分は中古だった。
- コストカットは常にUpdateする
コスト削減に終わりはない。 いったん相見積もりを取って最安値を確保したとしても、次の契約の際にはさらに値切るべきだ。 言うのはタダ、だからである。 大抵は次の契約の際に安くしてもらえる。 相手も、一度きちんと取引をして現金を受け取っているわけだから、その分回収できないリスクは下がっている。 だから安くすることは十分に可能なのだ。
私の会社では、週に2回営業戦略会議を開いている。各事業部の損益計算書の細かい項目までも徹底的に洗い出しているのだ。 発注議書や仮払議書などもすべてを徹底的にチェックする。 すると、毎回面白いように「コスト削減のアイデア」が生まれてくる。 ある担当者がこれ以上はコスト削減できません、と言ったとしても、別の部署の人間が考えもしなかったアイデアでコスト削減していることもある。 また他の会社のコスト削減の方法も、教えてもらうことにしている。私たちだけでは考えもつかないコスト削減の手法を編み出している人たちがいるのだ。
「値切り」は泣きを入れられてからが勝負
商売の基本の1つに、「値切り」がある。リーズナブルというのは、双方が納得した上での価格設定のことだ。言い値に乗っては絶対にいけない。 商売の基本は儲けることであるから、必ず儲かるように値段は設定されている。 しかし、中には将来の儲けを狙った先行投資的な値下げや、客寄せのための値下げをしている場合がある。そういう値下げは逃さないことである。 ともかく、言い値にはかなりの儲けが含まれていると心得よう。相手の利益になる部分をいかに自分の利益に変えていくか、これが値切りの本質である。 値切るためには、「相見積もり」を取ることから始める。「おたくはこれくらいの値段だけど、〇〇社はこれくらいの値段を出してきていますよ」と何度も相見積もりをするのだ。 相手に足元を見られないように、できるだけ早めに相見積もりを取るべきである。 納期が迫っていると、不利な値段で物を買ってしまうことにもなりかねない。 しつこく相見積もりを取れば、相手も最初から高い値段を提示しなくなるので、より効率的になる。
相手が泣きの言葉を出してきてから、さらに1、2回は値切る。そこで出た値段が大体の目安である。 私の場合、泣きを入れられた後に、まず5~10%値切る。そして2回目は「端数をなくしましょう」と交渉したところで手を打つ。 相手も商売なので、ガチンコの勝負をしているわけだ。 取引を断らない限りは、大抵の場合、利益もちゃんと出ている。 そこで泣きの言葉に屈する方が甘ちゃんなのだ。 経験の少ないビジネスマンほど、値切りの局面で不利な値段をのんでしまう。 何も臆することはない。値切りとは人間が商売をし始めてからずっと存在する、正当な商行為なのだから。
人件費は一番厄介な固定費
忘れがちなのが、一番大きなコストは人件費だということ。 1件当たりの単価が、ひと月で確実に数十万円もかかるコストは他にはない。つまり、採用には慎重すぎるくらい慎重になるべきなのだ。 私の会社も、創業当初はかなり慎重に採用活動をしていた。 何しろ人件費は、仕事の報酬が会社に入ってくるよりも先に、確実に支払われるべきものだからだ。会社が倒産したときも労働債権と呼ばれ、銀行や取引先の債権よりも先に保全される。
人件費を先に支払っている分、会社の運転資金が必要になってくる。 資金繰りのことを考えたら、中小企業でおいそれと採用を決めることはできないのだ。
その後会社にも余裕が出てきて、採用基準も緩くなった時期があったが、コストがかさんできたので原点に立ち返り、今では元通りに採用をかなり慎重に行うようにしている。 人件費にかかわるコスト削減とは、「成果主義」の徹底に他ならない。 成果が上がり、売上が向上してくれば、人件費というコストの比率を相対的に減らすことが可能だからだ。 成果を上げない社員に給料を支払うのは、お金を捨てていることにも等しい。 また能力の低い人間に高い給料を払っていることも、値切り方が足りないのと同じである。 会社と従業員の関係は、商売の取引関係と同じで、フェアでリーズナブルであるべきである。 従業員は自分が会社に貢献した利益に見合った給料を取るべきだ。 時に需給のバランスから、法外な給料が支払われている場合があるが、長続きはしない。 自分の能力以上に給料を取っていると、いずれ痛い目に遭うことになる。 もちろん背伸びをして、向上心に燃えている場合は別である。後で自分の給料に見合うだけの貢献を会社にしていれば、それでよい。