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54/ INNOVATION STACK

Square共同創業者のジム・マッケルビー氏が書かれた起業についての本

Square共同創業者のジム・マッケルビー氏が書かれた起業についての本

ビジネスマンと起業家、コピーとイノベーション

他のみんながやっていることを真似しなさい。 この秘訣は、競争のすさまじい業界ですら機能するし、実はそんなにややこしくない。

言い換えると、何一つ発明する必要はない。まともな場所を見つけよう。 いい人材を雇おう──たぶん他のすごいレストランから盗むのがいい。テーブルも、食べ物も、リネンも、保険も、その他あらゆるものを他のみんなが使う 10 ヶ所かそこらの業者から買おう。 メニューの値づけも競合他社と似たようなものに。ヨイショのオンラインレビューを何十個かでっちあげよう。そして、とにかく必死で働こう。

ほぼあらゆるビジネスはこういう仕組みだ。確立した市場を見つけて他の人がすでにやっていることを真似よう。さて、やるべきことは自分の新会社用に既存市場を少し削り取って、ひょっとすると自分の事業のほうがよくなるような、ちょっとした改良を付け加えれば良い。

既存市場で居場所を見つけるのは、混雑したエレベーターに入るようなものだ。乗っていた人たちはあなたを歓迎はしてくれないけれど、もじもじ動いて少し場所を空けてはくれる。黙礼の必要さえない。

コピーを選ぶのがいいけれど、でもそれで競合がいない状況は決して作り出せない。コピーは常に安心だけれど、でも発明のスリルは決して作れない。コピーはほぼ必ず正解だけれど、世界をひっくり返すような変化は決して生み出せない。

自分にとっての完璧な問題を見つけろ

  • 「未解決」でありながら「自分の強みを活かして解決できる」問題を見つけることから起業は始まる

起業家は珍しい。珍しすぎるくらいだ。でもそのスキルセットは、そんなに珍しいものじゃないし、あなただって持っているものだと思う。結局それは、ある一つの選択をするかどうかだ。つまり、だれも解決したことのない問題に取り組み、それを解決するために何でもやるか、ということだ。その第一歩は、自分にとって完璧な問題を見つけることだ。

完璧な問題は定義からして、解決策は手の届くものであるはずだ。 新たな解決策になりそうなものがうまく行くかどうか、どうすればわかるだろうか? 悪いね、それもわからないのだ。 唯一わかるのは、新しい解決策は、実際にやってうまく行くときには、うまく行くのだということだけだ。

Square社の完璧な問題

  • クレジットカードを受け入れなかったため自身のガラス製蛇口とその付属品を2,000ドルで売ることが出来なかったことに課題感を感じた

ぼくはテクノロジーというものに奇妙な期待を抱いている。まともに動くのが当然だと思っているのだ。それどころか、こっちの思い通りに動くのが当然だと思っている。iPhoneは、本にもテレビにも、地図にもカメラにも、写真アルバムにもジュークボックスにも、その他こちらの望み通りのものになる魔法の装置だ。なら こいつでクレジットカードを処理できてもいいじゃないか?  ぼくはジャックに電話して、この問題を説明し、それがぼくたちの新会社の目標になるべきだと告げた。他にこれに取り組んでいる人がいるかどうかは知らなかったけれど、自分でも是非やってみたかった。そしてジャックも説明を受けたら、やはり飛びついた。決済の世界については何一つ知らなかったけれど、ぼくたちは飛び込んだ。

クレジットカードの加盟店手数料は中小事業者は、巨人の45倍支払わされている。これででっかい問題が見つかったので、起業のよい理由もできた。

市場の果てを見に行け

どんな市場でも、いちばんおもしろいのはその果てにある端っこの部分だ。どうして市場はそこで止まるのか? お金があれば製品を買いそうな顧客はたくさんいるのに、買ってくれない。そして、利益が出ればそうした消費者に製品を売りたくてたまらない企業も、たぶんたくさんある。でもどこかの店で、市場はパタッと止まる。そこはまた、起業家精神の出発点でもある。

市場の果ては、製品やサービスのコストと、人々の支払い意思額のにらみ合いを表す。 スクエア社の場合、この国境は年商1万ドルほどのところにあった。 これよりも売上が少ない商店は、クレジットカードをほぼ使わせてもらえなかった。 てっぺんや中間部の市場に食い込もうとしたら、すでにそこにはとても強力な企業がいて、邪魔される。 でも市場の底には、だれも守っていない経済国境がある。警備がいないのは、現在の市場のルールや慣行がバーチャルな柵になっているからだ。 業界のみんなが可能だと知っている金額以下で製品を売ろうとするバカがいるもんかね。

「おいみんな、うちのやろうとしていることって、違法なんだぜ」

半日もたたないうちに、起業の一大マイルストーンにやってきた。 「ああ、だからこれまでだれもやってなかったのか」と突き止めた瞬間だ。 これぞ、自分が何か新しいことをやろうとしていて、城壁の外にいるのだと初めて気がつく、起業の決定的瞬間だ

賢い人はあまりに多く、未踏の問題を解決するメリットはあまりに大きすぎるので、だれもそれまで同じことを思いつかなかったはずがない。でも、大丈夫──明らかにだれも成功はしなかったはずだ。そうでなければ、その問題が残っているはずはないからだ。スクエアの場合、だれもそれをやっていない理由は、初日半ばではっきりしたし、その後数週間でなおさら明らかになった。やがてそれぞれの取引で自分たちが違反することになるルール、規制、法律を 17 本見つけた。これが市場底辺にある国境なのだった。

イノベーションは単発ではなく、計画されてもいない

  • 必要にかられて行う改善の連鎖が、気づけばイノベーションになっている

ある問題を解決するときの問題は、それが新しい問題を創り出し、新しいソリューションが必要になって、そのソリューションがさらに新しい問題を創り出すということだ。 この問題─ソリューション─問題の連鎖が続くうちに、やがて次のどちらかが起こる。 問題の解決に失敗して死ぬか、あるいはすべての問題を解決して、手元に絡み合いながらも独立したイノベーションの集まりが残る。 この成功した集まりこそが、ぼくの言うイノベーションスタックだ。

でもイノベーションスタックは、どっかのマネジメント合宿研修から、刺繡入りフリースといっしょに持って帰れるようなものじゃない。 イノベーションスタックは計画ではなく、生死に関わる脅威に対する一連の対応なのだ。 その脅威が、自分で城壁外に出ることにしたために起きた自業自得だろうと、放り出されたことで起きたものだろうと関係ない。 パイオニアたちが地図なしで旅をしたのと同じやり方で、イノベーションスタックを構築するしかない。

必要は発明の母だ。

イノベーションしようなんて思わない。イノベーションしたいとも思わない。 イノベーションすべきだとも思わない。イノベーション するしかないのだ。 イノベーションするしか手がない状況に身を置くことで、初めてイノベーションが始まる。

そしてそれは、ひどい道のりになる。 最初の発明は何か別のものをダメにする。 そこでまたイノベーションするしかなくなる ──別にそうしたいわけでもないのに。そしてこのサイクルが繰り返される。 かみ合い進化する発明の積み重ねを用意することだ。それがイヤなら、そもそも発明が必要な状況に身を置かないことだ。

巨人が潰しに来たら

  • Amazonが全く同じサービスを低価格で提供し始めた時、Squareは「何も変えなかった」

一つ変えれば他のものに影響しないわけにはいかない。うちのイノベーションスタックは完成していたのだけれど、それが与えてくれる力をまだ理解できていなかった。アマゾンに対抗するには、自分たちのやっている何かを変えるしかなかったけれど、でもやっていることすべては、きちんと理由があってのことだった。だから、何もしなかったのだ。

  • (以下の2つに当てはまっているなら) 競合ではなく顧客に集中する

アマゾンがスクエアを攻撃したときに驚かされたのは、うちのエネルギー水準がまったく変わらなかったことだ。 みんな、何が起きているかは知っていたのに、だれも何もちがうことはしなかった。 もちろん成長のこの段階で、会社のエネルギーはすでにあまりに高くて、残ったご飯を会議室に置いておくだけで温め直せたほどだ。 でも経営会議室からぼくが見ていた眺めは、不気味なほど静かだった。 アマゾンがどのくらい成功しているか見当もつかなかった。 というのも向こうの数字を見たことはなかったからだ。唯一見えたのは、自分の顧客と、彼らが絶えず生み出す解決すべき新しい問題の流れだけだった。

  • 理由1「しっかりと築かれたイノベーションスタックはコピーが困難だから」

アマゾンほどの才能とリソースを擁した会社ですら、数学からは逃れられない。 14の要素すべてをうまくコピーできる確率は4%ほどだ。 それでもおっかないのは事実だけれど、小便チビるほどの怖さではない。 これはもちろん、過度に単純化した見方だ。 というのもイノベーションスタックの各要素が独立だと想定しているからだ。 でも現実には、各要素は相互につながり合っている。 14個のイノベーション要素が一気に産業に解き放たれたときの影響力が持つ複雑性は、そうした要素自身の相互関係によりさらに複雑になる。 すべてがすべてに影響するとき、そこに登場するのは動学的システムだ。 動学的システムは理解しづらいし、コピーはほぼ不可能だ。

  • 理由2「新しい顧客を開拓しているのであれば、顧客を奪い合ってはいないから」

問題は、競合他社が起業的な会社を攻撃した場合、攻撃を受けたほうは攻撃を仕掛ける会社に注目すべきか、自分の顧客に注目すべきか、ということだ。こうした顧客のほとんどは、攻撃してくる競合他社から奪ったわけじゃないことにご留意を。この市場にまったく新しい顧客だったのだ。ジャンニーニは、銀行を使ったことのない人に銀行サービスを提供した。サウスウエスト航空は、他の航空会社よりはむしろ長距離バスからお客を奪った。スクエアの顧客のほとんどは、これまでクレジットカードを処理したことはなかった。こうした新規顧客に注目する──そして意見を聞く──のが筋が通っていた。特に、他のだれもそんなことをしていなかったんだから。

事業のタイミング

  • タイミングはある、なので待つ必要があることもある
  • だが、待っている間に全てを準備万端にしておけ

自分のイノベーションスタックのある要素の準備が整うのを辛抱強く待っているなら、その間にできることはあるだろうか? ある。待つという決断は、将来のどこかの時点で動かねばならないということだから、やることはいくらでもある。イノベーションスタックの他の部分に取り組んで、最終的な要素が登場したときには、すべて準備万端にしておくのだ。

  • ただし、正しいタイミングは早すぎるように感じられる

これはできませんと言われると、本当にうんざりして気分が悪くなる。 自分が正しいとわかっていてそれを説明できるなら、私はさっさとやって、冒険してみる」。 この引用は、ぼくが出会って研究したほとんどの起業家たちの態度をよく表している。 先に進むときに不確実性を喜んで受け入れる意欲だ。 では、それはどんな気分だろうか? うん、ぼくの場合には、かなり不安になる。 スクエアでの初年度の終わり近く、あれこれ未解決の問題について、ぼくは本当に「軽い」パニック発作を起こすようになった。 自分が心臓発作を起こしたと思って、車を停めて薬局に駆け込み、アスピリンを一びん買ったのを覚えている。

正しいタイミングは早すぎるように感じられる。

  • Squareは2009年の時点でモバイルの可能性に賭けた

ジャックとぼくがスクエアを立ち上げたとき、わかっていた唯一のことは、モバイル技術がすべてを変えるということだった。 だから会社で何をするかも決まらないうちに、iPhoneのプログラマを雇った。 言い換えると、2009年の時点でぼくたちは、まだ起きてもいないモバイル技術が世界を変えるほうに賭けた。 その変化がどんなものになるか見当もつかなかったけれど、可能な限りそれに備え、いろいろ新しい発明を必要とする問題に取り組んだ。 そうした発明の一部は自分たちでやったけれど、ほとんどはやはり適応して進化する世界からきた。

起業家は市場の破壊者ではなく、拡大者

完璧な問題を解決したり、市場を拡大したりするなら、その産業を研究したほうがいいのでは?いいや。顧客を見よう。 というか、潜在的な顧客と言うべきだな。その人たちはまだ、こちらの製品やサービスが可能だとすら思っていないんだから。

小説家ウィリアム・ギブスンの有名な洞察に「未来はすでに到来している──ただ分配が不均等なだけだ」というのがある。 この状況は不公平に思えるけれど、ギブスンの言葉は希望に満ちた約束を含んでいる。 最新のかっこいいモノを享受する人はわずかだけれど、いずれ未来はそれを万人に提供してくれるのだ。 でもそれを届けてくれるのはだれ?その未来を届けるのが起業家だ。

彼らが構築する企業は破壊者ではない。未来の自分のかけらを待つ人々のための、市場拡大者なのだ。 破壊が起こったとしても、それはただの副作用だ。 起業家の焦点は、融資を受けられない人々、旅行できない人々、家具調度のない人々、支払いを受けられない人々だ。 起業家が注目するのは、壁の向こうの地平線だ。 既存の仕組みをチラ見するにしても、それはコピーしたり破壊したりするためじゃない。 他にどんなに多くのことができるかを見るためだけなのだ。

不安になってこそ起業家

不安になじめ。恐怖と不安がどんなものか慣れろ。こう考えてほしい。だれもやったことのない何かをするなら、その活動自体のリハーサルは不可能だ。でもたぶんやるときには不安になるから、その部分くらいは練習しておこう。

それが起業家と何の関係があるのか? 恐怖はイノベーションの一部だ。それは自分が安全な場所にいると確認できないときの、自然で適切な反応だ。 そして真にイノベーションを行うときのフィードバックに対する準備を完全にするのは不可能だけれど、少なくともその気分については準備ができる。

Last updated on Sep 06, 2023 00:00 JST
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