堀江貴文氏が会社経営の具体的なノウハウについて2004年に書いた著書
起業は自分で決める
今思えば、このころから起業に対する思いは、私の中で大きく膨れ上がっていたのだろう。インターネットの事業に、自分の将来を賭けてみたい。そう思うようになったのである。 起業してみたいという気持ちは、ずっと以前からあった。 インターネットが好きで、気がついたら起業していた・・・・・・というのではない。 起業へのあこがれがあって、その気持ちとインターネットとの出会いが結びついたのだ。
踏ん切りをつけなければならないのである。だったらそれは、今しかないはずだ。 何度でも言おう。準備段階が終わったら、会社を興す時機は1つしかない。 「思い立ったら、今すぐに」 である。入念なリサーチが終わり、このビジネスモデルでいけると判断したら、すぐにでも始めよう。時々、周囲の人に、 「会社をつくろうと思うんだけど、どう思う?」 などと相談してまわっている人を見かけるが、論外だ。背水の陣を敷いて、あと先考えずに飛び込めばこそ、 「ようし、やってやるぞ!」 という気合が入るというものである。会社を興すにあたっては、実はガーンと気合を入れるのがいちばん大事なのだ。必死で気合を入れなければ、会社を軌道に乗せることはできない。 私がオン・ザ・エッヂを設立したときには、何人かの創業メンバーを集めたけれども、別に彼らに「会社をつくりたいけど、どうしよう?」と聞いたわけではない。自分でリサーチし、自分で判断し、そして自分の決意として起業へと踏み切ったのである。 人に相談してまわっていたら、ただひたすら迷いが増えていくだけだ。
オン・ザ・エッジ創業時の事業計画書
アルバイトで市場の可能性と儲かる領域を見定めた
無人の荒野を見て、不安にならない人はいない。本当にこんなところに客は来るのだろうか。商売を始めてしまっても、実は人っ子一人来ないのではないか。そんな不安はもちろん、誰もが感じることだと思う。 もちろん私は、蛮勇をふるって無人の荒野でビジネスを始めるべきだと主張しているのではない。 私だって1996年当時、まだ海のものとも山のものとも分からなかったインターネットという無人の世界を前に、「これが本当にビジネスになるのか?」という不安はあった。 だから私は、ちょっとしたテストマーケティングを行ってみたのである。
その第一歩が、コンピュータ企業でのアルバイト経験だった。 ウェブの制作というビジネスが大きな市場になる可能性を秘めていることは、アルバイト先の会社で営業をやってみて、自分でもよく理解できていた。 1996年の段階で、何がインターネットビジネスとして成立するかを慎重に考えれば、それはウェブ制作とホスティングサービスしかなかったのである。だったらそれをやるしかないし、実際に勤務先では次々と受注が舞い込んできていた。 だからこのアルバイトの経験は、起業のためのテストマーケティングの第1段階だったといえる。仕事をしながら市場がどうなっているかを知り、業界内に人脈も培われ、そして管業のやり方をじっくりと覚えることができた。
しかしアルバイトの経験だけでは、テストマーケティングとしては不十分だった。 会社の一人として働いているだけでは、もし自分が起業したら、本当に仕事はくるのだろうかという問いに答えることはできない。 「今までのように会社の後ろ盾がなくなっても、こんな小僧に顧客は本当に仕事を回してくれるのだろうか?」 そんな不安が私にはあった。 そこで私は、本当にささやかな第2段階のテストマーケティングを行ってみることにした。 つまり、仕事上で知り合った人に、フリーランスの立場で仕事をもらえないか頼んでみたのである。 結果は上々だった。たったの2週間で、80万円もの仕事が入ってきたのである。これなら独立してもとりあえずは大丈夫だ。そんな自肩ができた。 よし、独立して起業しよう。私は決意した。
地味でカッコ悪い日銭を稼ぐ仕事をやった
オン・ザ・エッヂは、そんな不毛な戦略は採らなかった。 とにかく日銭を稼ぐことを第一目標にして、ウェブ制作やホスティングなどの事業に精を出したのである。
当時は新しいビジネスモデルがもてはやされ、他社が思いつきもしなかったような新たなサービスをいち早くスタートさせるのがカッコいいと思われた時代だったから、ウェブ制作やホステイングなどの業務はいかにも地味で、カッコ悪かった。 でも流行の最新ビジネスモデルが一銭のカネも生み出さず、コストをどんどん吸収してベンチャー企業の経営を悪化させていくのを横目で見ながら、ウェブ制作やホスティングはきちんと毎日毎日、安定した収入を上げ続けてくれたのである。
おかげでオン・ザ・エッヂの経営状態は、きわめて安定していた。創業以来、単月で一度は赤字を出したものの、それ以外はこの8年間、単月度黒字を続けている。 カッコいいビジネスモデルも、頑張って続けていけば、いずれは売り上げが上がるようになるのかもしれない。そのときには、先行者メリットを生かして莫大な収益が期待できるのかもしれない。だがせっかく目の前に日銭を稼ぐことのできるチャンスが転がっているのに、それを無視して遠い先の未来に頼ってしまうというのは、あまりにももったいない話である。
旧ライブドアを格安で買収し、圧倒的にコストカットした
- 約60億円ほどマーケティングにコストを使い、知名度はあったが事業が回らなくなっていたライブドアを1.2億円で買収した
- 参考: https://strainer.jp/notes/1575
- ライブドアは株式交換でのM&Aを積極的に行っていた
旧ライブドアは、社員に年収平均700万円もの給料を支払っていた。 市場のアベレージと比べても、高すぎたのではないだろうか。 この会社を買収した際、元の社員は民事再生法ですでに全員解雇されていた。 わが社が再雇用したのはわずか2人。そのうちの1人は無料プロバイダ事業部門に残し、もう1人はまったく関係のない部署に異動してもらった。そしてプロバイダ部門には別の部署から5人ほど異動させ、その5人に旧ライブドアの仕事のすべてを任せてしまった。 それだけの人数で十分足りる程度の仕事量だったのである。
旧ライブドアはそれまで、ずっと赤字から抜け出せなかった。だがわが社が買収したとたん、翌月からいきなり単月黒字に転換できてしまったのである。 わが社は、旧ライブドアのような野放図な人事管理は行っていない。 わが社では、全員が必死に努力している。しかも、一時的に瞬発力を出しているのではない。 常に、努力し続けているのだ。そうしないとダメ社員の烙印を押され、どんどん降格されてしまうからだ。 ダメ社員を降格して給料を減らし、できる社員を登用して給料を上げるー。 非常に当たり前のことのように見えるかもしれないが、会社というのは大きな1つの社会となっている。
ストック売上とフロー売上の割合は半々が良い
ストックとフローは、毎月半々になるようなバランスが最も望ましい。 収入の半分がストックになっていれば、仮に最悪、新規の仕事がまったく取れなくなってしまっても、通常の半分のキャッシュインがある。経費をとことん抑え込んでいけば、何とか食いつないでいける。 じゃあ売り上げのすべてがストックになっていれば、毎月安心して日々が送れるのでは?という疑問を感じる方もいるだろう。確かにそうなのだが、もしストックに頼ってしまうと、今度は経営者や社員のモチベーションがどんどん下がっていく可能性がある。固定収入に安住してしまうのだ。 「もっと頑張って会社を大きくするぞ!」 というモチベーションを高めていくためには、ストックは半分程度にしておいた方がいい。
売上の依存先を分散する
自分の力で仕事を切り拓いていくのではなく、元請けの大企業の動向ばかりを気にして生きていくというのは、あまりにも情けないし、精神衛生上もよくないだろう。
基本的に私の考え方は、1社当たりの売り上げが全体の20%を超えないようにするということだ。20%を超えてしまったら、他の取引先を開拓するなどして、分散させた方がいい。これはリスクヘッジの基本である。
売り上げに対して健全な資本金の割合は40%以上
会社の売り上げが増えてくると、バランスシートも膨らんでくる。 売掛金や買掛金が増え、運転資金の銀行からの融資や資産の増加など、動くカネはどんどん大きくなっていく。 そうなると、最初の資本金とのバランスが崩れてきてしまう。 例えば売り上げが数億円規模になってしまったのに、資本金が1000万円のままというのは、非常にアンバランスだ。 財務諸表の貸借対照表(BS)の健全度を測る指標の1つとして、自己資本比率というのがある。 自己資本と負債を足した「総資本」に対して、自己資本がどのくらいの割合になっているのかをパーセンテージで表した数字だ。 この数字がどの程度になれば健全と言えるのかは、業種によって異なってくるから、一言では説明しにくい。 一般的には、目標は40%以上、理想的な比率は70%%とも言われている。 少なくとも、数%というレベルに落ち込んでしまうと、その会社の務基盤はかなり脱弱になってしまっているということは断言できる。
圧倒的なコストカットの思想
入社してみて、最初はびっくりしました。 だって航空会社とは、あまりにも世界が違うんです。航空会社は上下関係の厳しい社会で、どんなに仕事ができようができまいが、先輩は先輩で、後輩は後輩。 オフィスのフロアもかっちりと分かれていて、他のフロアの人とは上司を通さないと打ち合わせもできないような雰囲気でした。
ところがオン・ザ・エッヂに来てみると、なんだか大学のサークルみたいで・・・・・・。 私は航空会社の上意下達の社会に慣れきっていたので、最初は本当にとまどいました。 それにコストカットの厳しさも、これまでにないほど高いレベルでした。 例えばその直前まで在籍していた大手ITベンダーでは、文房具は好きなものを買うことができました。 オフィスに文房具メーカーのカタログがたくさんおいてあり、好きなデザインや気に入った色のものを適当に選べば、そのまま発注することができたのです。 ところがオン・ザ・エッヂではボールペン1本、消しゴム1個でも必ず相見積もりを取らなければならず、そして最も安い値段のものを発注しなければなりませんでした。 名刺入れ1つ取ってもそうで、私の机には名刺入れがなかったからずっと欲しかったのに、なかなか許可が下りなくて・・・・・。 社長に何度もお願いして、やっと許可をいただいたほどです。でもその話をオン・ザ・エッヂの社内で話したら、同僚たちが、「えっ、名刺入れの許可がもらえたの?」とびっくりされてしまいました。コストカットの思想はすみずみにまで浸透しているのです。
オン・ザ・エッジの上場前お家騒動
- 元CSO榎本氏と元CFO宮内氏によるYoutube動画
- 共同創業者でパートナーでもあった有馬氏から株を買い取る時にDiscountしてもらい、かつ彼女の父親から買取資金を貸してもらった と話されている
「シンプルに考える」ために関係者全員にエクイティを持たせる
シンプルに考えること。
私はこれが成功の秘訣だと思っている。 大抵は会社経営歴が長くなればなるほど、ステークホルダー(利害関係者)は増え、その調整に四苦八苦することになる。 中長期的に経営の舵取りをうまくやるには、ステークホルダーとの間でウィンウィンの関係を築くことである。 一時的な自分の利益獲得のために周りの人に損をさせてはいけないのだ。 しかし、それぞれの関係性を局地的に見れば、利害が一致しないケースは多い。あちらを立てればこちらが立たずなんてことはしょっちゅうである。
上場して株式を発行することは、この複雑な利害関係をシンプルにする第一歩である。 会社の周りにはお客様、株主、取引先、従業員、経営者などの利害の一致しにくい多数のステークホルダーが存在する。 商品を安くすればお客様は喜ぶが、会社は損をする。その損を取引先に押し付ければ、取引先との利害関係が一致しない。 あるいはコストを減らせば、それは従業員の給料を減らすことにもなりかねない。 それぞれの板挟みになり、経営者は苦悩の毎日である。
解決するのは簡単だ。みんな株主になってもらえばいいのだ。
成長企業であるうちは、中長期的な株式の値上がり益を享受してもらう。成長が一段落し、安定企業になれば配当金という形で株主還元すればよい。 そうすればお客様は、その会社の企業の一口オーナーのようなものであり、商品に関して興味もわくだろうし、ライバル会社の商品に引けを取らないデキで価格も変わらないのであれば、株主である会社の商品を選ぶだろう。 取引先もある程度の値引き要求に応じてくれるかもしれないし、従業員は株価の上昇、あるいは配当を期待して、無理な給料の値上げ交渉をしてこない可能性も高まるかもしれない。 もちろん、100%解決はできないかもしれないが、かなり有効な解決方法であることは間違いないだろう。 特に起業して間もないベンチャー企業にとっては、株式を利用して、キャッシュアウトを抑え、優秀な人材を獲得して、急成長するためのドライバーであるに違いない。
私はこの、みんなが容易に株主になれる仕組みを普及させるために、東京証券取引所マザーズに上場している株式会社ライブドアの株式を、あえて100分割などの大幅な分割に踏み切った。少しでも多くの人たちに、株主になってもらいたいからである。 今まで日本でマトモな会社の株式を買おうとすると、最低でも数十万円以上の資金が必要だった。
株式は銀行預金などに比べれば、非常にリスクの高い金融資産である。 1日に10%を超える上げ下げだって日常茶飯事である。 一般市民がそのようなリスクの高い資産に、保有資産の多くを投資することは自殺行為に近い。 そのような投資をしてしまうと、どうしても日々の短期的な価格変動に一喜一憂してしまい、中長期的な株主として振る舞うことができなくなる。 しかし、数百円から数千円の株式であれば、比較的リスクが高くても投資を決断するハードルはかなり下がるだろう。
私はお客様でもあり、株主でもある人たちを、ある著名ファンドマネージャーの助言で、インベストマーと呼ぶことにした。
さらに株主にわが社の商品を購入していただくだけでなく、商品を購入していただいたお客様にもわが社の株主になっていただければと思い、この書籍に株式のプレゼントを付けることにした(2004年12月31日まで)。 抽選で1000名に、私が持っている株式会社ライブドアの株を1株進呈しようというものだ。おそらく日本初の試みではないかと思う。
わが社のようなベンチャー企業を立ち上げること、あるいはその会社に入社することは、まだまだリスクと感じられる方も多いかもしれない。 しかし、本書に書いた通り、リスクが大きければ大きいほど、大きなリターンを手にすることができるのも事実である。もちろん、最初にリスクを取るのは非常に勇気のある行動である。
所感
- 直近読んだ本の中ではトップクラスに良い本だった
- 後半「第3章 会社を上場させる」「第4章 みんなで幸せになる」は特に良かった
- 第4章にあるストックオプションで資金を得た従業員の目線から見たライブドアの話は生々しさもあり、当時の状況が非常に解像度高く伝わってきた