堀江貴文氏がライブドア代表の2004年に書いた本
シンプルに考える
「企業経営に一番大切なものはなんですか」とたずねられると、いつも僕はこう答えています。
「ものごとをシンプルに考えること」
実はものごとを複雑に考えることは簡単なのです。 いつまでも考えて引き延ばしていればいいわけですから。 世の中って、複雑に考えようとしたらいくらでも複雑に考えられるものなのです。
シンプルな思考を積み上げていくことってほんとうに大切なのです。 儲かるか儲からないか――商売をするならすべてをこれで判断すればいい。 善悪は儲かるか儲からないかで決まるのです。 そして商売はスピードが勝負ですから、「リスクとリターン」のバランスでシンプルに、即座に判断することが必要になってくるのです。
僕は会社の経営で悩んだことはありません。 すぐにシンプルに決断する。 これは僕の「こだわらない」性格と関係があるのでしょう。 僕の長所も短所もこだわりがないところだと思います。
リスクとリターンだけを見て即断即決する
自分の取れるリスクの範囲はわかっているはずです。 リスクが少ないと判断したら、なにも考えずにすぐに実行すればいい。 リスクが大きいようだったら、期待リターンの確率に応じて、シンプルに判断すればいい。
シンプル思考の最大の長所は、誰にでも説明することができるところです。 判断基準をすべて金額に置き換えてしまえばいいわけです。 数値で示せば、人を容易に説得することができます。
様々な案件をすべてお金に置き換えて考えて、リスクよりリターンが上回るのだったら、難しいことを考えずにさっさと始めればいいのです。
基本に忠実に凡事徹底
僕がいつも言っていることは「基本に忠実になれ」ということです。
なぜ会社がつぶれるか。 キャッシュがショートするからです。 逆に言えば、資金繰りがうまくいっている限り、業績は悪化していても会社はつぶれないのです。
具体的に言うと、「一体なんのために商売をするのか」という目的です。 商売の目的はお金を集めることです。 そして、集めたお金を投資して、どんどん会社を大きくしていく。 そのモチベーションを保つことが大切なのです。
つまり商売の基本は、お金を稼ぐことに対する興味や執着心を持ちつづけること、なのです。 会社をもっと大きくして、そのうえでもっと大きな商売をやる。 そこでもっと大金を手に入れる、というように。 その基本ラインに沿って、お金を動かしていくのが僕の役割だと思っています。
「基本に忠実」でありつづけるわけです。 僕の理想は、「シンプルに」「こだわらず」「考えない」経営です。
実践で学ぶ
会社の経営というのは、まず実験をして後から論理がついてくる実験物理学みたいな世界で、「理論が先か実験が先か」はかなり曖昧です。
そのことがわかっているので、僕はいわゆる経済本をほとんど読んでいません。 それどころか読書歴自体がほとんどないのです。 ハードカバーの本はおそらく一〇〇冊くらいしか読んでないと思います。
その代わりに雑誌はたくさん読みます。週に二〇冊ほどは目を通すようにしています。マンガもよく読みます。
タイミングの重要性
未来において「そうなるはずのもの」を実現していくのがビジネスだと思います。
タイミングはほんとうに重要です。 だから、僕のスタンスもインターネットの普及度に応じてだんだん変化しているのです。 たとえば僕が会社を立ち上げた頃は、ウェブサイトをつくりたいというお客さんが多かったので、サイトの制作を請けおっていました。 しかしいまでは、そんな商売をしている暇があったら、自分たちでeコマースのサイトを開いてものを売ったほうが、はるかに儲かるわけです。
いまから五年前にeコマースサイトを開いても成功は難しかったと思います。 それで僕の会社でもeコマースには本腰を入れてこなかったのです。 お客さんに頼まれればeコマースサイトのシステムはつくりますけど、「後はご自由にどうぞ」という形でした。 ところが、やっと時代が追いついてきた。 eコマースサイトで繁盛しているお店がたくさんでてきたのです。 そこで当時から蓄積してきた技術を使って、自分たちでビジネスを展開しているわけです。 今度は僕たちがお金を集める番なのです。
営業がすべて
営業がすべてなのです。 ハンサムでなくても女の子をものにすることができるように、たとえできの悪い商品でも営業に行けば確実に売れるのです。 自社の製品より他社の製品でより優れたものがあることを知りながら、お客さんに商品を売っても、それは相手をだましていることにはなりません。 単純に情報の問題です。 お客さんがその情報を知らなかったら、こちらが営業した商品を買ってくれるでしょう。
- 営業は「気合と根性」
営業をすればものは必ず売れます。テクニックはいりません。 よく営業のテクニック集みたいな本がありますよね。「名刺はこう使え」とか「携帯電話の使い方」とかそういった類のもの。 しかし、そういう細かいことは実はどうでもいいのです。 もっとシンプルに考えて、一つ二つくらいのことを実践すればいい。 それは気合いと根性です。気合いと根性でものを一個売ってみてください。 別になんでもいいので、どこかからものを仕入れてきて売る。 ものが一個でも売れた瞬間に人間は変わります。 そこからすべてがはじまるのです。
- まずは売れ
「こんなアイディアでこんなものをつくったら売れると思うのですけど」では話になりません。すでに失敗が目に見えてます。 「いま、俺はこれだけ売っているんだ」「だからもっと金があれば運転資金が回るので金をくれ」と言うのなら僕もわかるのです。 結局はものを売って金を稼いできたやつが偉いわけです。 商売とは、金を稼いでなんぼの世界なのです。それがわからないなら商売はやめたほうがいい。
ビジネスとは泥臭いもの
インターネット関連のベンチャー企業出身ということで、なにかスマートなイメージをお持ちなのかもしれません。 しかし、それは誤解です。 そういった人はビジネスの本質がわかっていないのです。 ビジネスはもともと泥臭いものです。 難しく考えてはいけません。気合いと根性。それだけで十分なのです。 僕がやっているのは商売なのです。商売というのは、ほんとうにドロドロに泥臭いものなのです。
先人の事例から徹底的に学ぶ
よく「失敗は成功のもとである」とか「若いうちは失敗したほうがいい」などと言われますが、そんなわけはありません。 失敗は、しなければしないほうがいいに決まっているのです。 失敗しないと学べない人は凡人です。 自分の身をもってでないと学習できないということは、他人の失敗から学ぶことができない人ということです。それは普通人です。 これまで歴史上のたくさんの人たちが、山ほど失敗してきました。 失敗例なんてもう、掃いて捨てるほどたくさんあります。 こういった知識は多ければ多いほどいいのです。
凡人から一歩抜け出すには、常に先人の知恵から学ばなければならないのです。 その努力を怠らなければ、失敗の一歩手前で踏みとどまることができるのです。
無駄なお金は一切出さない
社内でなあなあで使うような無駄なお金は一切だしません。 経費の使い道はすべて会議にかけますし、基本的に交際費は経費では落とせません。 交際費という名の遊興費に過ぎないのが実態でしょうから。
もちろん社長の僕も交際費を経費では落としません。 食事に行っても僕はすべて自腹で払っています。 そうしないと社内で示しがつきませんし、それに社内では僕が一番ケチなのです。 ベンチャー企業の社長の場合、ケチであることは重要だと思います。 特にスタートアップのベンチャーには倹約の精神が必要です。 経費なんて削減しようと思えばいくらでもできますし、それによって会社の利益は相当変わってくるのです。
資金は集められる時に一気に集める
僕たちはどうも最終列車に間に合ったようです。 株式を公開して、そこでお金を一気に六〇億円集めました。 それが現在の売り上げ二五〇億円を生み出す原動力になっていると思います。 お金は集めることができる時期に、一気に集めてしまわないとだめなのです。
初期は技術集団というブランディングをした
僕の会社では当初ホームページの制作をメインにしていました。そのとき心がけていたのは、「技術を売りにする」ということです。
信頼を勝ち取るためには、きちんとした生産ラインを整備してミスを少なくすることが大切です。これは一流の家電メーカーが実践している考え方と同じで、きちんと生産ラインを確立させ、QC(クオリティ・コントロール)を徹底的に行うわけです。
つまり、ひとつひとつの業務の責任の所在を明確にして、それをシステマティックに運用していくということです。 ウェブサイトをつくるうえでは、特にこの考え方を徹底しました。 きちんとした仕事をすれば、自然と人が集まってきます。
会社が注目されていくなか、僕は技術を売りにしました。ベンチャー起業という浮わついたイメージではなくて、堅実な技術集団というイメージをつくったわけです。
事例
球団株式の発行構想
近鉄バファローズは現段階で、年間三〇億円から四〇億円の赤字を出しているといわれています。 それに対し、僕たちは具体的な改善策を提出しました。 たとえば、球団株式を発行し、株主になってもらうことでファン層を拡大したり、ストックオプション(自社株購入権)を選手に付与することでやる気を引き出す。 また、ITを活用して試合中継や情報配信を行うことなども提言しました。
今無一文だったらどうやって稼ぐかへの回答
僕は先日、「もし堀江さんがいま無一文になったら、どうやってお金を稼ぎますか」と聞かれて、「ネット上でアフィリエイトビジネスをやる」と答えました。 アフィリエイトとは自分のサイトから商品にリンクを貼り、そのルートを通して購入されると一定の金額がキックバックされるシステムです。 これは誰でもできますし、年収二〇〇〇万円くらいまでは稼げます。 次に、デイトレーダーをやります(現実は、株式投資はまだ一般化しておらず、一回でもやったことがある人は一〇〇〇万人以下、実際にアクティブに稼働している株式口座は一〇〇万口座程度だそうですが……)。 そして、アフィリエイトやデイトレードで稼いだら、そのお金をベンチャー企業に投資するか、自分で事業を始めますね。 それが成功すれば、だいたいゴールです。