南場智子氏が書いたDeNAの創業から現在までの物語
実はコードが1行もなかった事件
- 緊急事態、パニックに対応する中で南場氏が旦那さんから言われた3つのこと
1 諦めるな。その予算規模なら天才が3人いたら1カ月でできる。
2 関係者、特にこれから出資しようとしている人たちに、ありのままの事実を速やかに伝えること。決して過小に伝えるな。
3 「システム詐欺」という言葉をやめろ。社長が最大の責任者、加害者だ。なのにあたかも被害者のような言い方をしていたら誰もついてこない。
DeNAのケチケチ文化
トイレにはペーパータオルが置いてあったが、これにも乙部が「手は1枚で拭けます」と書いて貼りつけた。 お客様もおそるおそる1枚使用。こんなことでいくら節約できるのか
一見みみっちい話に感じるが、こうやって管理部門が1円単位で苦労して節約していることを知ると、システム担当は開発にかかる数千万円の重みを痛感し、効率的なシステムの設計に血道をあげ、調達担当は必死の覚悟で値切る。
ヤフオクに対する勝機がない状態のビッダーズをなぜ諦めなかったか
なんで諦めなかったんですか、と。自分でもそれがナゾだ。 熱病が続いてしまっていたのだと思う。
それと、チームが誇らしかった。こんな人材が集まるベンチャーはほかにないのではないか。 このチームでやってダメなら、世の中に成功なんてないんじゃないか。 真っ暗なトンネルのなかで光はまったく見えないものの、出口があるということは一瞬たりとも疑わなかった。
ビッダーズの広告をヤフオク上に出すという奇策
ビッダーズを宣伝する広告の出稿もアクセルを踏んだ。 オークションに関心のないユーザーに告知しても無駄金になる。 ターゲットユーザーの目だけに直接触れる場所に広告を出したい。 そんな都合のよい場所など……? あるのだ。 我々はヤフオクへの出稿を模索した。 むろん、はじめは競合指定があるのでDeNAの広告は出せないと断られた。 これは業界の常識。 しかし、これで諦めていたら機械と一緒だ。情報収集すると、どうもヤフーの営業部は予算達成が厳しく、かなり焦っているらしいことがわかる。 どれくらい不足しているのか、金額のイメージもつかめてきた。 営業トップに直接掛け合い、具体的な出稿金額を提示して粘るうちに、「まあ、内規ですから、例外はアリでしょう」とさすが王者、英断だ。 数日後から「オークションならビッダーズ!」という広告がヤフオクのすべてのページのトップにでかでかと貼られ、語り継がれる業界の珍事件となった。
DeNAの運命を拓いた決定的な決断
- ガラケー向けのオークションサービスはPC向けのビッダーズと全く別システムとして作った
PCを前提につくられたビッダーズとつなぎ、まったく同じ条件で参加するモバイルオークションをつくろうとすると、画面の大きさや操作性の違いなどから、どうしても使いにくさが出てしまう。 また、ビッダーズはそのl時点でかなり複雑なシステムになっており、それと新しい携帯向けサービスをつなぎ込むことも厄介だった。
ビッダーズの延長線上につくったら、ヤフオクが携帯向けの展開をした瞬間、また2番手になってしまう。今度は勝ちにこだわりたい。
今振り返ってDeNAの運命を切り拓いた決定的な選択をひとつ挙げろと言われたら、私はこの決断を挙げるのではないだろうか。
- ユーザーの利用シーン・背景がまるで違うため、異なるUXが求められるという発見
駅のホームで電車が来るまでの3分間に利用するモバイルサービスは、動作がモタモタしていてはお陀仏だ。
同じ人物でも、モバイルユーザーのときとPCユーザーのときでは利用のパターンがまったく異なる別のユーザー人格となるというこの事実は、単にインターネットサービスの一端末としてモバイルを位置づけるのではなく、特化したサービスを展開することの重要性を我々に強烈にすり込み、同時に新しい巨大市場の可能性を示唆したのだった。
- タイミングに合ったものを"一番使いやすい"形で出してナンバーワンになる
インターネットサービスの世界は、業界ナンバーワンになるとケタ違いに、こんなにも効率がよいのだ。 時代の波(この場合パケット定額制の普及による波)をとらえ、タイミングに合ったものを一番使いやすい形で出す。 これを実現してナンバーワンになった者だけが、拡大の良循環を手にする。
初速が桁違いだったモバゲー
モバオクは成功を確信するまでに数週間かかったが、モバゲーはこのように始まってすぐに驀進を開始。 成功の確信には数時間もかからなかった。 モバゲーの使いやすさ、楽しさも大きな成功要因だが、すでに運営していたモバオクのユーザーのなかでほかのユーザーとのやりとりが特に激しい「お話好き」1000人をまず招待するという戦術もおおいに功を奏したとのこと。
競合ではなくユーザーに集中する / 成功の復讐にあう
当社が身を置く業界はとても競争が激しいために、マスコミからもよく競合に対する意識を尋ねられる。 けれども、真の競合は「ユーザーの嗜好のうつろいのスピード」だと私は認識している。 それより半歩先に適切に動かなければならないのだ。
このときは遅れ、そして方向を誤った。 現状のアバターが飽きられたなら、新しいアバターを導入しよう。 2次元が飽きられたなら3次元だ、動かないアバターの次は動くアバターだ、と新しいアバターの開発を急いだのだ。 成功のモデルは壊される前に壊さなければならない。しかし企業は往々にして成功の復讐にあう。 我々は、アバターという勝ちパターンにこだわり、新しいトレンドを見失っていた。
背中で見せる、共に戦うリーダースタイル
- モバゲーとヤフーの提携交渉をリードした当時新卒4年目の赤川氏のマネジメント、リーダーとしてのスタイル
この経験で赤川は、彼なりのマネジメントスタイルを見つけたのではないかと思う。 誰よりも働く、教えるより見せる、上から目線でなく、自分をさらけ出して一緒に戦うスタイルだ。 なかなか頼もしいマネージャーへと育っていった。
事業家に必要な力
- 早い段階、不確実な状況で意思決定をする
- 不完全な情報に基づく迅速な意思決定が、充実した情報に基づくゆっくりとした意思決定に数段勝る
意思決定については、緊急でない事案も含め、「継続討議」にしないということが極めて重要だ。 コンサルタントから経営者になり、一番苦労した点でもあった。
継続討議はとても甘くてらくちんな逃げ場である。 決定には勇気がいり、迷うことも多い。もっと情報を集めて決めよう、とやってしまいたくなる。 けれども仮に1週間後に情報が集まっても、結局また迷うのである。 そして、待ち構えていた現場がまた動けなくなり、ほかのさまざまな作業に影響を及ぼしてしまう。 こうしたことが、動きの速いこの業界では致命的になることも多い。 だから「決定的な重要情報」さえ欠落していなければ迷ってもその場で決める。
本当に重要な情報は、当事者となって初めて手に入る。 だから、やりはじめる前にねちねちと情報の精度を上げるのは、あるレベルを超えると圧倒的に無意味となる。 それでタイミングを逃してしまったら本末転倒だ。
事業リーダーにとって、「正しい選択肢を選ぶ」ことは当然重要だが、それと同等以上に「選んだ選択肢を正しくする」ということが重要となる。 決めるときも、実行するときも、リーダーに最も求められるのは胆力ではないだろうか。
- 怖さを背負い、チームの迷いをなくす
検討に巻き込むメンバーは一定人数必要だが、決定したプランを実行チーム全員に話すときは、これしかない、いける、という信念を前面に出したほうがよい。 本当は迷いだらけだし、そしてとても怖い。 でもそれを見せないほうが成功確率は格段に上がる。
事業を実行に移した初日から、企画段階では予測できなかった大小さまざまな難題が次々と襲ってくるものだ。 その壁を毎日ぶち破っていかなければならない。 迷いのないチームは迷いのあるチームよりも突破力がはるかに強いという常識的なことなのだが、これを腹に落として実際に身につけるまでには時間がかかった。
人が育つ会社
- DeNAの人が育つ文化の素地
なぜ育つか、というと、これまた単純な話で恐縮だが、任せる、という一言に尽きる。 人は、人によって育てられるのではなく、仕事で育つ。しかも成功体験でジャンプする。
大胆に任せ、万が一できなければチームが寄ってたかって助ける。 まれにそれでもカバーしきれず、穴があくこともある。 そのリスクはとろう、でも人が育たないリスクはとらない。 DeNAはそういう選択をしている。
- 成長する人材
労を惜しまずにコトにあたる、他人の助言には、オープンに耳を傾ける。
しかし人におもねらずに、自分の仕事に対するオーナーシップと思考の独立性を自然に持ち合わせている。
仕事ぶりを見せ合う中で築いた人脈以外は役に立たない
逃げずに壁に立ち向かう仕事ぶりを見せ合うなかで築いた人脈以外は、仕事では役に立たないと痛感している。
誰もが自分のことで忙しいときに、自分の仕事の最短ルートから少し外れてでもほかの誰かのために何かをしようとするならば、それは、ひたむきな仕事ぶりに魅せられた相手に対してだけなのではないだろうか。