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72/ Originals 誰もが「人と違うこと」ができる時代

アダム・グラント氏が書いたオリジナリティについての本

アダム・グラント氏が書いたオリジナリティについての本

最も良かった一節

世界を「創造する者」は、自主的に考える人であり、「好奇心が強い」「まわりに同調しない」「反抗的」 という三つの特質があるという。

こういった人たちは地位や階層などを気にせず、残酷なまでに率直だ。 そしてリスクを顧みず行動を起こす。

彼らにとっては、失敗することの恐れより、成功しないことへの恐れのほうが強いからだ。

1. オリジナリティは同調性に逆らった創造的破壊から生まれる

現状の世界に疑問を持つことからオリジナリティは始まる

「理性的な人は、自分を世界に適応させる。非理性的な人は、世界を何とか自分に適応させようとする。ゆえに、あらゆる進歩は非理性的な人のおかげである。」

ジョージ・バーナード・ショー

成果を求めすぎると創造性が低下する

  • 神童がのちに成功することは少ない

業績をあげることへの意欲があまりにも高いと、オリジナリティが二の次になる可能性がある。成功を重視すればするほど、失敗を恐れるようになる。つまり、必ず手に入る成功に向かってしか、努力しなくなるからだ。

2. オリジナルな人たちはリスクのバランスを取っている

  • 元からオリジナルな人はほとんど存在せず、みな「発言して目立つ」ことを恐れている

じつは、そういった人たちは、確信をもって全力で前に進んでいたのではなく、ある立場をとるよう丸め込まれたり、説得されたり、あるいは強要されたりしていた。 一見、リーダー気質を備えた人物に見えるかもしれないが、たとえていうと──あるいは文字どおり──〝支持者や仲間にもち上げられて〟行動した のだ。

  • オリジナルに見える人も不安を常に抱えているが、それに対処している

オリジナルな人たちは、はた目には確信と自信に満ちているように見えるものだが、内心はさまざまな感情や自己不信が入り混じっている。

心理学者のジュリー・ノレムは、こういった困難に対応するための二つの戦略を研究している。 「戦略的楽観主義」 と「防衛的悲観主義」 だ。 「戦略的楽観主義」とは、最高の結果を予測し、冷静を保ち、目標を高く設定することだ。 「防衛的悲観主義」とは、最悪の結果を想定し、不安を感じながら、起こりうるあらゆる悪い事態を予測しておくことだ。

  • ジョン・アダムズとジョージ・ワシントン

「アメリカ革命で指導的な役割を果たした人物らは、革命派と呼ぶにはほど遠かった」と、ピューリッツァー賞受賞者の歴史学者ジャック・ラコーブは述べている。 「自分の意志に反して革命家になった」ということだ。 独立戦争の指導者のジョン・アダムズはイギリスの報復を恐れており、また、芽を出しかけていた弁護士としてのキャリアをすんなりと捨てる気にもなれなかった。 革命活動に関与するようになったのは、第一次大陸会議で代議員に選ばれてからのことだ。 アメリカ合衆国初代大統領ジョージ・ワシントンは小麦と製粉の事業、漁業の運営、そして馬の生産に専念しており、革命活動に乗り出したのはアダムズの任命で植民地軍総司令官になってからだ。 「私は、もてる権限のかぎりをつくし、何としてでもこの任務を避けようとした」とワシントンは書き記している。

  • キング牧師

キング牧師は公民権運動を主導することに不安を抱いていた。彼の夢は、牧師になり大学の学長になることだった。

キング牧師はのちにこう思い起こしている。

「事態があまりにも早く進み、じっくりと考える時間がなかった。その時間があったなら、指名を断った可能性があっただろう」 そのわずか三週間前に、キング牧師と妻は仕事について話し合っていたところだったのだ。 「(妻とは)これ以上、コミュニティの重大な責務を引き受けるべきでないということで合意していた。 私はそのとき論文を書き終えたばかりで、教会の活動にもっと身を入れる必要があったのだ」

  • ニコラウス・コペルニクス

ニコラウス・コペルニクスは、地球が太陽を回っているという独自の発見を発表しようとしなかったため、天文学は何十年ものあいだ停滞する結果となった。 彼は自分の発見が笑いものになるのを恐れ、二二年ものあいだ沈黙を貫き、友人にしか話さなかった。 やがてある 枢機卿 がコペルニクスの研究のことを知り、発表を働きかける手紙を書き送った。 それでもコペルニクスはそこから四年間も行動を起こさずにいた。 彼の最高傑作が日の目を見たのは、ある若き数学者がみずから本にまとめて出版してからだ。

  • ワービー・パーカー

ワービー・パーカーの四人が選んだやり方と、起業を成功させるために私が必要だと考えている選択は異なっていた。 ニールたち四人は、ありったけの力を注いでことに当たろうと腹をくくってはいなかった。 だから私は四人の信念に疑問を抱いたのだ。真剣さがなく、入れ込みようが足りないんじゃないか? 全力投球せずに無難なところを狙いすぎて、失敗する運命にあるのでは? だが実際は、そういう姿勢で臨んだからこそ成功したのだ。

私は本書で、 オリジナリティには徹底的にリスクを冒すことが必要だという通説をくつがえし、オリジナルな人たちは私たちが思うよりもずっとふつうの人たちなのだ、ということを示していきたい と思う。

ワービー・パーカーの躍進は、このようなリスク軽減の賜物だ。 四人の創業者のうち、ニールとデイブの二人が共同CEOに就任した。 単独のリーダーを据える一般的なやり方のほうがいいという忠告を聞き入れずに、 舵とりのためには二人いたほうが安全だと考えたのだ。 実際、複数のCEOを擁したほうが市場の反応は好意的で、会社の評価が向上することが証明されている。彼らは当初からリスク軽減を最優先事項としていた。

  • Google

グーグルの創業者ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは、一九九六年にネット検索の性能を劇的に向上させる方法を見いだしたが、一九九八年までスタンフォード大学大学院での学業を継続していた。 「グーグルはもう少しで創業されないところだった」とペイジは語っている。 「博士号課程をやめることが不安だった」からだ。 一九九七年、検索エンジンの開発が学業を妨げていることを心配し、二人はグーグルを現金と株式で二〇〇万ドル(約二億円)以下の価格で売却しようとした。 だが幸運なことに、購入を検討していた先がそのオファーを断ったのだ。

私はペイジに尋ねた。「なぜあなたとセルゲイ・ブリンは、グーグル設立当初、スタンフォード大学を中退し、会社に全力投球するのをあれほどためらったのですか」と。  返ってきた答えは、二人のキャリアにかかわるものだった。  すでにアカデミックな世界で研究者として確固たる地位を築いていたら、キャリアをダメにする心配をせずに会社に専念できていただろう、とペイジはいった。  それにキャリアの初期、まだまったく地位がなかったころ、二人はリスクを冒すことに何のとまどいもなかった──ペイジはソーラーカーを製作したり、レゴでプリンターをつくったりして、やりたいことをやって忙しい大学生活を送っていた。  だが、博士号取得に向けてかなり進んでしまってからは、二人にとって、中退することによって失うものが大きくなってしまった。  中間層に見られる同調性は、オリジナルな存在になることの危険性よりも、確実な安全性を選ばせてしまうのだ。

  • ビル・ゲイツ

「彼は世界最高のリスク・テイカーとはほど遠い」と、起業家のリック・スミスは述べている。「ビル・ゲイツは、〝リスクを軽減させることにおいてワールドクラスの達人〟であると考えるほうが正確かもしれない」

リスク分散がオリジナリティを生む

  • リスク回避的で、自分に疑問を持っている人の方が成功確率が高いという研究

調査をまとめると、起業に専念することを選んだ人は、自信に満ちたリスク・テイカーだった。 一方、本業を続けたまま起業した人は、リスクをなんとか避けたがっており、自信の程度も低かった。 たいていの人は、リスク・テイカーのほうが明らかに有利だと予測するだろう。 だが研究の結果はその逆だった。

本業を続けた起業家は、やめた起業家よりも失敗の確率が三三パーセント低かったのだ。 リスクを嫌い、アイデアの実現可能性に疑問をもっている人が起こした会社のほうが、存続する可能性が高い。 そして、大胆なギャンブラーが起こした会社のほうがずっともろいのである。

  • ポートフォリオバランスを取る

成功を収めている人はこれと同じようにリスクに対処し、ポートフォリオ(金融資産の組み合わせ)のなかでバランスをとっているという説を、クームスは提唱した。 ある分野で危険な行動をとろうとするのなら、別の分野では慎重に行動することによって全体的なリスクのレベルを弱めようとするのだ。

日中の仕事が妨げになってやりたい仕事ができない、ということはないのだろうか? それはない。 逆にある分野において安心感があると、別の分野でオリジナリティを発揮する自由が生まれるというメリットが得られる。

  • まさにロング・ストラングル理論

「リスク・ポートフォリオのバランスをとる」というのは、つねに中程度のリスクを冒して中間に留まるということではない。 成功を収めるオリジナルな人は、ある部分で大きなリスクを冒しつつ、別の部分ではことさら慎重になることでバランスをとっているのだ。

3. 発想よりも大量のアイデアの中からの選別が重要

私たちは世界にオリジナリティが欠けていることを 憂い、それは人々に創造性が欠けているからだという。新しいアイデアを出すことさえできれば万事うまくいくと思っているのだ。だが実際はオリジナリティを阻む最大の障害はアイデアの「創出」ではない──アイデアの「選定」なのだ。

傑作は多作から生まれる

では、創作者がみずからのアイデアを適切に評価できないとすれば、傑作を生み出す可能性はどうすれば高められるのだろうか? その方法とはズバリ、「多くのアイデアを生み出すこと」 だ。

サイモントンの研究によると、ある分野における天才的な創作者は、同じ分野にとり組む他の人たちよりも、とくに創作の質が優れているわけではない、という。

ただ、大量に創作すると、多様な作品が生まれ、オリジナリティの高いものができる確率が高くなるのだ。

オリジナリティを発揮したいのであればもっとも重要なことは、とにかくたくさんつくること。大量に創作することしかありません」と、人気ラジオ番組のプロデューサーであるアイラ・グラスは述べている。

  • 成功したければカエルにキスをしろ

「王子さまを探し当てるまでには、たくさんのカエルにキスをしなくちゃいけないよ」と、ケーメンはつねづねチームメンバーたちにいっていた。 実際、「カエルにキスをする」というのはケーメンの持論の一つだ。

  • 制作 → 仮説検証のサイクルをとにかく多く回す

自分のアイデアを適切に評価できるようになるには、何より他者からの評価を収集することだ。 とにかくたくさんのアイデアを提示し、どれがいちばんウケるのかを見てみる。

成功体験の罠

ライス大学教授のエリック・デインは、 専門知識と経験が深まるほど、世界の見方がある一定の状態に固定されてしまう としている。

ある分野の知識を得れば得るほど、その典型に縛られてしまうのだ。

変化の目まぐるしい世界では、経験から得られた教訓が、その人を間違った方向に導くこともありうる。  そして変化のスピードはますます加速しているため、私たちの環境はよりいっそう予測不能になっている。 今や直感は、新しいものごとに対処するヒントとして頼れなくなっており、だからこそ「分析」がより重要になってきている。

過去に成功を収めている人ほど、新しい環境に入ると業績が振るわない のだ。  自信過剰になっており、事情がまるきり異なっているのにもかかわらず、批判的な意見をなかなか受け入れようとしない。ジョブズもそのような成功者のワナにかかってしまった。

  • 利害関係のない仲間に意見を求める

このことから、 オリジナリティを正確に評価するには、自分自身で判断しようとしたり、上司に意見を求めたりするのではなく、同じ分野の仲間の意見をもっと求めていくべき だとわかる。  同じ分野の仲間は、上司や試写に呼ばれた視聴者のようなリスク回避をしようとしない。  斬新なもの、変わったものに可能性を見いだそうという前向きな視点をもっており、とかく後ろ向きな「偽陰性」判定を回避できる。  また、こちらのアイデアに関して特別な思い入れがないため、客観的に正直な評価をしてくれるから、盲目的な「偽陽性」判定も避けることができる。

直感はいつ当てになるのか

直感は、自分の経験が豊富にある分野においてのみ正しいのだ。

類似のものを何年もじっくりと見ていると、直感が分析に勝ることがあるのだ。 無意識のパターン認識が優れている ためである。むしろ時間をかければかけるほど、木を見て森が見えなくなってしまいがちだ。

知識がない場合は、じっくりと分析したときのほうがより確実な判断ができる ということだ。

ノーベル賞受賞者である心理学者ダニエル・カーネマンと、意思決定の研究を専門とするゲーリー・クラインが解説しているように、「直感が頼りになるのは、予測可能な環境で判断を下す経験を積んだときだけ」 だ。

4. まわりを巻き込む方法

  • 弱点を全面に出す

グリスコムはいずれの場面においても、自分より権力のある相手にアイデアを提示しており、出資をさせようとしていた。 誰かを説得するには長所を強調して短所を最小限に留めなければならない、と私たちの多くが思い込んでいるが、そのような強気のコミュニケーション法は、相手が支持してくれている場合にのみ効果を発揮する。 一方で、斬新なアイデアを売り込もうとする場合や、目上の相手に対して何らかの変化を提案する場合には、相手が疑いの目をもつ可能性が高い。 投資家はこちらの提案に何とかケチをつけようとするし、上司はこちらの提案がなぜうまくいかないのか、その理由を探そうとする。 じつはそのような状況下では、グリスコムのように 下手 に出るコミュニケーション方法をとり、みずからのアイデアの欠点を強調するほうが効果的なのだ。それには少なくとも四つの理由がある。

第一に、弱点を前面に出すと、聞き手の警戒心がやわらぐという利点がある。

「悲観的なことをいう人は、頭がよく見識があるように見られる」 と、アマビールは書き記している。「一方で、肯定的な発言をする人は、世間知らずの楽天家だと見なされる」  アイデアの欠点を示しながら意見を通すことの第二の利点はここにある。つまり、そうすることで、自分を理知的に見せられるの だ。

欠点を正直に伝えることの第三の利点は、信頼性が増すことだ。

人は簡単に思いつくものほど一般的で重要なものとして認識する らしい。「思い起こしやすさ」が情報となるのだ。

5. 機を待つことの重要性

「明後日にできることを、明日に回してはいけない」マーク・トウェイン

成功とは多くの場合、ほかの人たちを出し抜くことで得られるものではなく、行動を起こす絶好のタイミングを待つことでこそ得られるものである

賢者は時を待ち、愚者は先を急ぐ

  • 先延ばしにすることは生産性を下げるが、創造性は高める
  • 良いアイデアは放置から育つ

オリジナルな人になるためには、いちばん最初に行動しなくてはならないわけではない。大成功を収めている人たちは、スケジュールどおりに到着しているわけではない。

もともと大きな問題を解決する意欲をもたない従業員は、先延ばしをしても問題解決が遅れただけだった。一方で、新しいアイデアを生み出すことに情熱がある従業員は、先延ばしにすることが創造性のきっかけになっていた。 先延ばしは「生産性の敵」かもしれないが、「創造性の源」にはなる。

オリジナリティを大いに発揮する人は、大いに先延ばしもするが、まったく計画をしないわけではない。 戦略的に先延ばしをし、さまざまな可能性を試し、改良することによって少しずつ進めていく。

  • 途中やりのものごとの方が頭に残る

いわゆる「ツァイガルニク効果」を受けることができた。  一九二七年、旧ソ連の心理学者ブルーマ・ツァイガルニクは、 達成した課題よりも達成できなかった課題のほうをよく覚えている ということを証明したのだ。

  • 先発者になることが必ずしも成功を意味しない

先延ばしにするという行動そのものが、キング牧師が人生最高の演説ができた理由だとしたらどうだろう?

意外なことに、オリジナルな人たちを研究していくと、スピーディに行動を起こしていちばん乗りになると、利益よりも不利益のほうが大きい場合も多々あるということがわかってきた。

オリジナルな人になるためには、いちばん最初に行動しなくてはならないわけではない。大成功を収めている人たちは、スケジュールどおりに到着しているわけではない。

意外なことに、 先発者となることは、利点よりも不利な面が大きい ことがままある。 研究によると、先発企業が高い市場占有率を獲得する場合もあるが、最終的に生き残る確率は低く、利益率も低くなるとのことだ。

オリジナルであるには、先発者である必要はない。 オリジナルであるというのは、ほかとは異なる、ほかよりも優れているという意味 である。

およそ四分の三の企業が、時期尚早に規模拡大を試みて失敗している。その規模を支える市場の需要がまだ存在しない段階で、投資に踏み切ってしまっているのだ。

リスクを恐れず行動する人は、とにかくいちばんになることにとらわれており、衝動的な決断をしがち だ。その一方で、リスクを回避しようとする起業家は、先発隊の様子を探り、適切なタイミングを待ち、参入する前にリスク分散のバランスをとっておく。

逆に、 市場の過熱ぶりが冷めたころまで待った起業家は、成功の確率が高くなっている。 「トレンドに頑固なまでに逆らってぶれない会社は、市場に留まり、出資を受けて、上場企業になる可能性がもっとも高い」ということなのだ。

  • 特許やネットワーク効果がある場合は先駆者が有利

先駆者が優位になりやすいのは、特許技術がかかわっているときや、強い「ネットワーク効果」(製品やサービスのユーザーが増えると、その価値が高くなるという効果。電話やソーシャルメディアなどが好例)が存在するときだ。

しかしほとんどの場合、 最初に行動を起こしたからといって成功の確率が高くなるわけではない ということを覚えておこう。そして、市場が不安定な場合や不明な場合、あるいはまだ開拓されていない場合は、パイオニアになることには明らかに不利な面がある。 ここで注意しておきたいのは、オリジナルなアイデアがある場合、 競合他社よりも先にゴールへたどり着くことだけを目的に、行動を急ぐのは誤り だということだ。

概念的イノベーターと実験的イノベーター

なぜ早咲きの人と遅咲きの人がいるのだろうか? オリジナリティがピークに達する時期とその持続期間は、個人の思考スタイルにかかっている。 ガレンソンがさまざまな創作者を研究したところ、イノベーションには根本的に異なる二つのスタイルがあることがわかった。 「概念的イノベーション」 と「実験的イノベーション」 だ。 概念的イノベーターは、大胆なアイデアを思い描いてそれを実行に移すというタイプだ。 実験的イノベーターは、試行錯誤をくり返して問題解決を行ないながら学び、進化を遂げていく。 ある特定の問題にとり組んではいるが、とりかかった時点で具体的な解決策を見つけているわけではない。 あらかじめ計画するのではなく、進めていくなかで解決策を見いだしていく、というのが実験的イノベーターだ。

ガレンソンは、概念的イノベーターは短距離走者で、実験的イノベーターはマラソン走者であるという。ガレンソンがノーベル賞を受賞した経済学者を調べたところ、概念的イノベーターは偉業を平均四三歳で成し遂げている一方、実験的イノベーターは平均六一歳だった。

  • 概念的イノベーターは若いほうが有利

著名な投資家であるビノッド・コースラの言葉を借りると、「三五歳以下の人は変化をもたらす人。四五歳以上の人は、新しいアイデアという意味では、はっきりいって死んでいる」ということだ。

かの偉大な科学者アルベルト・アインシュタインも、あの革命的な相対性理論の論文を初めて三〇代半ばで発表したのちに似たようなことを述べている。「三〇歳になるまでに科学に偉大な貢献をしていない人は、以後もけっしてそれを成しえることはない」

概念的な大発見は早い時期に起こる傾向がある。 飛び抜けて独創的なアイデアは、新鮮な視点で問題にアプローチした場合にもっとも発見されやすい からだ。  ガレンソンは、「概念的イノベーターは一般に、ある分野にはじめて触れてからさほど時間が経たないうちに、もっとも重要な貢献を果たす」といっている。

  • 実験的イノベーターはかけてきた時間が長いほうが有利

実験的なイノベーションは、必要な知識とスキルの蓄積に何年も何十年もかかるが、オリジナリティの源泉として、より長続きする。

6. 誰と組むか

  • 反対していたがしだいに味方になってくれた人たちと組むべき

ずっと私たちに協力的だった人たちは、最高の味方にはならない。 最高の味方になるのは、はじめは反対していたが、しだいに味方になってくれた人たち だ。

  • 「節度のある過激派」になることで仲間を集める

オリジナルな人が成功するには、「節度のある過激派」になることが必要 だという。  成功を収めるようなオリジナルな人は、伝統とはかけ離れた価値観や、反抗的な考えをもっているが、自分たちの信じることや考えを、より主流にいる聴衆の心に響くように紹介する術を心得ている。

「なぜ」から「どのように」へと焦点を移すと、過激さがやわらぐ。

  • 小さな要求から始める

スタインマンは、心理学者ロバート・チャルディーニがいうところの「フット・イン・ザ・ドア(足を開いたドアのすきまにはさみ入れる)テクニック」を使ったのだ。   つまり小さい要求を出し、足がかりを確保してから大きい要求を出す というテクニックだ。過激な要求ではなく小さなことからはじめると、説得が簡単になるのである。

7. 良い組織とは

  • 創業期は企業文化に溶け込むことを第一にして採用する

③の献身型の雇用方法は異なっていた。スキルも将来性も大事ではあるが、企業文化に溶け込むことを絶対条件としていたのだ。企業の価値観や基準と足並みをそろえることが最優先だった。  ③の経営者は、モチベーションに対しても一風変わったアプローチをとっていた。 「専門型」と「スター型」をめざす創業者は、従業員にむずかしい業務を与えたり、自主性を重視したりするのに対し、献身型モデルの創業者は、従業員間もしくは従業員と組織間を強い 絆 でつなぐことに注力していたのだ。

技能やスター性をもつものはいずれ去っていくが、会社に対する「思い入れ」は息が長いのである。

  • 上場後は「反対意見と多様性」を意識する

献身型モデルをもつベンチャー企業には高い生存率や上場のチャンスをもたらしたが、上場後には株式市場価値が伸び悩んでいた。  献身型モデルの企業はスター型モデルの企業と比べ、株式市場価値の成長に一四〇パーセントの遅れが、専門型モデルの企業と比べると二五パーセントの遅れが見られた。

市場が動的になると、強い企業文化をもつ大企業は孤立してしまう のだ。

企業戦略の研究者であるマイケル・マクドナルドとジェームズ・ウェストファルの研究では、 会社の業績が低迷すればするほど、CEOたちは「同じような視点」をもつ友人や同僚からのアドバイスを求める傾向があった。

本来ならば逆のことをしなくてはならないのだが、異論を突きつけられることの心地悪さよりも、認められ、傷をなめあう心地よさを好んでしまう。

「少数派の視点は大切だ。意識の幅が広がったり、違った考えが生まれたりするからだ。たとえ少数派意見が間違っていたとしても、よりよい解決法を見つけるときや、決断をする際の役に立ち、結果的によいものが生まれる」 異なる意見は、たとえ間違っていても、役に立つのだ。

  • ブリッジウォーター・アソシエイツの例

ブリッジウォーターでは、問題や意見があれば当人と直接話し合う。 「忠誠心より、真実を語ることや柔軟であることを優先せよ」「批判的な意見を口に出していえないのなら、批判的意見をもつ権利はない」と、ダリオはルール集に記している。  典型的な組織では、異論を唱える者は罰を受けるが、ブリッジウォーターでは、意見が出せるかどうかで決まる──現状に迎合する従業員は、解雇されることすらあるのだ。  共通の価値観や基準に対する従業員の思い入れが強い場合にのみ、強い文化は存在する。

同社では採用の際、ある人材が会社の文化に適応できるかどうかを、会社の文化にどれだけ近いかではなく、文化にどれだけ貢献できそうかで判断する。  ダリオが求めるのは、自主的な考え方ができ、企業文化を豊かにする人材だ。異論を唱えることに対する責任を従業員にとらせることで、全従業員の意思決定の方法を根本的に変えた。

勤続年数の長い人や地位の高い人にしたがうのではなく、ブリッジウォーターでは、「アイデアのクオリティ」が決断のもとだ。  つまり、アイデア実力主義、もっとも優れたアイデアが採用される組織なのだ。

  • 部下に解決策を求めるな

従業員が問題よりも解決策を提案してくるほうが、管理職たちはより好意的な反応を示すそうである。  しかし、集団思考という観点から見ると、解決策を考えることにはネガティブな側面がある。  ホフマンは、間違いを発見し、正し、防ぐ組織文化を築くことに関する世界的な研究者の一人である。

ホフマンは、「解決策に焦点をあてすぎる文化は、〝弁護の文化〟に 偏ってしまい、探究心を削いでしまう」 ということを見いだした。  いつも答えを用意してくるよう求められていると、人に話をする前に結論を出しているため、広い視点から学ぶ機会を失ってしまうのだ。

レイ・ダリオは、従業員に解決策をもってきてほしいのではない。問題をもってきてほしいのだ。

  • ただし多数決では意思決定しない

問題を認識することは、集団思考との戦いのほんの半分。残りの半分は、問題を解決するために正しい意見を聞くこと。ブリッジウォーターには、その方策がある──信頼のおける人々を集めて問題と向き合い、それぞれの推論を共有し、解決策を模索することだ。  すべての人の意見が歓迎されているが、すべてに平等の価値があるわけではない。

Last updated on Jan 10, 2024 00:00 JST
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