リクルート創業者江副さんが2007年に書かれた本
意思を伝えるのが苦手だった江副氏→文書化を意識した
私はそもそもシャイな性格で、カリスマ性はない。人前で話すことも苦手だった。社員の前で話す時は前日から準備をして望んだが、専務の森村はしばしばこう忠告した。
「ドラッカーはこう言っているとか、松下幸之助はこうあるといった他人の説を引用した話や新聞記事を引用した話が多く迫力がない。また、状況説明的な話が多すぎる。“僕はこう考えている” “リクルートをこんな会社にしたい” “みんなこうしてほしい” という経営者自らのメッセージを強く打ち出さないと、力強さに欠ける」
これは創業期に私が克服しなくてはならない弱点であった。
リクルートでは私の思いや経営に対するスタンスについては、「社是」「社訓」「心得」として文章にし、それを社員教育の教材にした。
それが結果的にリクルートに共同体意識を醸成し、独特の企業風土や企業文化が形成されたように思う。
自由闊達で風通しの良い社風の原点
- 江副氏は創業15年目、社員2000名くらいまでは全社員の名前を覚えるようにしていた。
- 全社員がニックネーム、またはファーストネームで呼び合っていた。
私のニックネームはエゾリン。現役時代、社員で私を江副社長と呼ぶ人はいなかった。 社長や専務をニックネームで呼ぶのは社員の親愛の情の表れであろう。 それは今も引き継がれていて、結果として社内の親和性と凝集力を高めている。
「葉隠」の教えに「武士は己を知る者のために死す」とあるが、トップに自分の名前と能力を知られ、期待されていると社員が感じれば、自ずと仕事へのモラールは高まるものである。
経営の三原則
- 社会への貢献
- これまでにない新しいサービスを提供して社会の役に立つこと
- どんなに儲かる事業であっても社会に貢献できない事業ならばリクルートは行わない
- 個人の尊重
- みんなちがってみんないい。適材適所。
- 商業的合理性の追求
- 松下幸之助語録の「利益を上げ、税を納めるのが国家への貢献」を引用
- 利益を上げるための3原則
- 質の高いサービスを提供する
- モノ・サービスをスピーディに提供する
- コストを下げて顧客への価格を下げる
- リクルートでは1と2に重きをおいて、経費削減を一番初めに犠牲にした
白紙の原稿用紙を捨てることがもったいないと指摘された。 後ろめたい気持ちにはなったが、情報の価値は時間の経過とともに下がる。原稿用紙を節約するよりスピードを大切にしたのである。
自ら機会を作り出し、機会によって自らを変えよ
- この社訓はブルーのプレートに銀色の文字で印刷され、今でも社員には机の上に置いている人もいる。
行動指針 「経営理念とモットー」
- 「誰もしていないことをする主義」
- これまでになかったサービスを提供することにこだわる
- 既存分野に進出する時には、別の手法での事業展開に限定する、単純な後追い事業はやらない
誰もしていないことをするからリクルートは隙間産業と言われる。だが、それを継続して社会に受け入れられれば、いずれ産業として市民権を得ることができる。
- 早川電機工業(現シャープ)の創業者 早川徳次さんは発明家として「他社が真似するような商品をつくれ」というポリシーを掲げていた。
- 「分からないことはお客様に聞く主義」
- 新しいことをやるとき、先生はお客様である。
- 自分の意見と仮説をもってお客様の意見を聞く姿勢が大切。仮説がなければお客様の本当の声を聞くことはできない。
- 「ナンバーワン主義」
- 競合が出現すれば、それを歓迎する。
- 競争のない事業は産業として認められないということだからだ。
- 後発企業の良いところはプライドを捨てて進んで取り入れ、協調的競争を行い、ナンバーワンで有り続ける。
「同業者間競争に敗れて二位になることは我々にとっての死である」をモットーとした。
- 「社員皆経営者主義」- 起業家の集団
- スモールサイズのグループ会社を数多く作る。社長の1人会社でも良い。
- 赤字会社で将来黒字化が見込めない事業は早期に撤退して精算する。
- 失敗に対して寛容な風土が重要。撤退パーティでお疲れさまでしたと拍手をする。
- 「社員皆株主」
- 社員持ち株を推進していく
- 株主総会は社員への決算報告会と位置づける。
- 「健全な赤字事業を持つ」
- 新規事業は成功するとは限らないが、積極的に挑戦し、失敗したと判断したら機会損失を恐れずに撤退する
- 新規事業の立ち上げはボトムアップ、赤字事業からの撤退はトップダウンで決断するべき
- 「少数精鋭主義」
- 「自己管理を大切に」
- 「自分のために学び働く」- 遊・学・働を合一の理想とする
- 「マナーとモラルを大切にする」
マネージャーの心得十章
- 希望・勇気・愛情
- ネットワークで仕事をすること
誰でも、周囲から信頼される良いネットワークを構築していけば、1人ではできないことができるようになる。普通の人でも大きな仕事ができるのが、人が組織をつくる目的である。
- 高い給与水準
- 人は仕事を通じて学ぶ
「忙しすぎて考える時間がない。読者や思索にもっと時間を割くべき」という人がいる。しかし、両者を分けて考えることは難しい。なぜなら、人を読書や思索に駆り立てる源泉が仕事そのものの中にあるからである。
- プレイングマネージャー
- まず周囲に自らを語ること
- マネージャーはメンバーをよく理解しようとする前に自らを理解してもらうべき。
- 周囲の人から「あの人は何を考えてるか分からない」と思われている人には、人はついていかない。
- 数字に強いこと
- 努力の継続
- 脅威と思われる自体の中に隠された発展の機会がある
- 「スランプから脱出するには勝つしか無い」
- 自らを変えれば新しい道が開ける。ピンチやスランプに陥った時は同時にチャンスが訪れていると受け止めて欲しい。
ドラッカーは『脅威と感じるほどの事態のなかに、隠された発展の機会がある』と言っている。われわれは値下げではなく、やり方を変えることで活路を見出そう」と。
- リクルートは社会とともにある
成功する起業家の20か条
- 1人では大きな事業はなし得ない
- 気力と体力のある若い人材を集め、目標を共有して事業を推進すること
- 人がついてくるために、まず自らを磨くこと
- カリスマ的魅力がなくても、人がついてくるやり方を身につけることはできる
- 重要なことはメンバーの誰よりも優れた仕事を熱心にしていて、それを継続していること (背中で引っ張る)
私は子どものときからケンカが弱く、他人と競うことを避けてきた。人を統率する力はとても弱い。いつも会社のトップでいることがつらかった。そのため社員の誰よりも懸命に働こうと、一番に出社、夜は最後に電気を消して鍵をかけ帰っていた。
- 企業は人なり
- メンバーをよく知り、仕事を割り振る。
自分と同じことをするように要求する人がいるが、考え方を同じにすることはできるが、起業家と同じことはできない。できる人がいればその人は新たな起業家になる
- 日本で初めての事業をやる
- 人の成功を真似した成功も不可能ではないが、難しい
- 社会の要請に答えている事業をやる
- 資本を要さない仕事から始める
- 仕事の優先度を考え、時間を有効に使う
- 失敗を恐れぬ勇気を持つ
- 若くかつ就職しないで起業する
- スキルと知識を学び身につける
- 経営哲学を社員と熱心に何度も共有すること
- コミュニケーション能力を高めること
- 話し上手であり、かつ聞き上手でもあること
- 倫理観を持つこと
- 健康に留意すること
- 政治に関心を持つこと
- コアビジネスに関係ない趣味の事業はやらない
- 人的資源、人の能力を最大限引き出す力を持つこと
- 自分の考えは正しいから必ず成功するという自信を持ちつつ、顧客の声を聞く
- スモールビジネスをリスペクトする
メディアの取材は断らない
私はメディアから要請があれば必ず取材に応じるようにしていた。メディアは良いことばかりは書かない。褒める一方で批判的なことも書く。しかし、それを気にしないようにし、会社の知名度を上げることを優先し応じていた。それがまた営業の後押しにつながり、会社の業績にも貢献する。そう思っていた。
大げさに褒め、恥をかかせないように叱る
みんなの前で手を叩いて褒めるだけではなくて、机をどんどん叩いて「よくやった」と褒め称えた。池田友之からは「大袈裟すぎる」と言われたが、私は大袈裟でいいと思っていた。逆に叱るときには、個室に呼び出し誰にもわからないように叱っていた。
所感
- 名著中の名著だけあり、特に第一章、第二章、第三章は仕事人/事業家としてのエッセンスが詰まっていた。何度も読み返したい名文。
- 江副氏がシャイで意思を伝えるのが苦手だったからこそ、社訓や行動指針を文書化し、それが現在のリクルートという組織の風土を作るのに大きく影響したというのは起業家として非常にユニークであり興味深いエピソードだった。
- 「誰もしていないことをする主義」を行動指針にいれているのは「ユニークであること」を大事な価値観にしている自分と通じるところがあり、非常に共感しながら読めた。