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12/ 思考の整理学

文学者の外山滋比古先生が1983年に書いた一冊

文学者の外山滋比古先生が1983年に書いた思考に関する本

以下、個人的に印象に残った部分を要約しつつメモ

朝の頭は最も効率が良い

  • 脳は寝ている間に思考を整理する。朝は脳が整理を終えてスッキリしている状態なので最も思考に適した時間である。
  • 最も頭が冴える「朝飯前」の時間を長くするために朝食を取らない。さらに昼食後に本格的に寝て再起床から夕食までの間を「2度目の朝飯前」としている。

思考は「寝かせる」ことが必須

外国に「見つめる鍋は煮えない」ということわざがある。

発明するためには、他のことを考えなければならない

思考の整理法としては、寝させるほど大切なことはない。思考を生み出すのにも、寝させるのが必須である。

長い間、心の中であたためられていたものには不思議な力がある。寝させていたテーマは、目をさますと、たいへんな活動をする。なにごともむやみと急いではいけない。人間には意志の力だけではどうにもならないことがある。それは時間が自然のうちに、意識を超えたところで、おちつくところへおちつかせてくれるのである。  努力をすれば、どんなことでも成就するように考えるのは思い上がりである。努力しても、できないことがある。それには、時間をかけるしか手がない。幸運は寝て待つのが賢明である。ときとして、一夜漬のようにさっとでき上がることもあれば、何十年という沈潜ののちに、はじめて、形をととのえるということもある。いずれにしても、こういう無意識の時間を使って、考えを生み出すということに、われわれはもっと関心をいだくべきである。

アナロジーが創造を生む

両者の間に厳密な相似性があるとはかぎらないが、それでもなお、未知の問題を解決するのに当って、アナロジーの方法はきわめて有効である。

一般に、うまい説明や表現がないとき、〝たとえて言えば――のようなものだ〟といった形で、われわれは絶えず、アナロジーの方法を用いている。未知を解くもっともありふれた方法としてよい。

課題をセレンディピティを起こしやすいコンテキストで包む

寝させるのは、中心部においてはまずいことを、しばらくほとぼりをさまさせるために、周辺部へ移してやる意味をもっている。そうすることによって、目的の課題を、セレンディピティをおこしやすいコンテクストで包むようになる。人間は意志の力だけですべてをなしとげるのは難しい。無意識の作用に負う部分がときにはきわめて重要である。セレンディピティは、われわれにそれを教えてくれる。

いかに上手く忘れるか

勉強家は朝から晩まで、同じ問題を考えている。いかにも勤勉なようだが、さほど効率はよくない。田舎の勉強、京の昼寝、というが、時間のありあまるほどある人が、没頭して時の移るのを忘れる勉強をしても、それほど、うまく行かない。むしろ、休み休みの方が進むものは進む、ということを教えたことばであろう。

  • メモを書いて外部記憶装置に情報を移すと忘れやすくなる
  • 運動や散歩は良い忘却法

本を読んでも、とかく心が行間へ脱線しがち、というようなときには、思い切って散歩に出る。 歩くのも足早に歩く。すると気分が変化し始める。

  • 知識は収穫逓減の法則で飽和するものであるため、捨てる・忘却・整理といった逆のことをやるべき時点が来る

知識ははじめのうちこそ、多々益々弁ず、であるけれども、飽和状態に達したら、逆の原理、削り落し、精選の原理を発動させなくてはならない。つまり、整理が必要になる。はじめはプラスに作用した原理が、ある点から逆効果になる。そういうことがいろいろなところでおこるが、これに気付かぬ人は、それだけで失敗する。

声で考える

  • 声を出してみると、頭が違った働きをする
  • 他人との知的な会話の中でアイデアが進む

気心が知れていて、しかも、なるべく縁のうすいことをしている人が集まって、現実離れした話をすると、触媒作用による発見が期待できる。セレンディピティの着想も可能になる。なによりも、生々として、躍動的な思考ができて、たのしい。時のたつのを忘れて語り合うというのは、多くこういう仲間においてである。たくまずして、話ははじめから脱線している。脱線は脱線を誘発して、はじめはまったく予期しなかったところへ展開して行く。調子に乗ってしゃべっていると、自分でもびっくりするようなことが口をついて出てくる。やはり声は考える力をもっている。われわれは頭だけで考えるのではなく、しゃべって、しゃべりながら、声にも考えさせるようにしなくてはならない。

  • ゴシップと創造的な会話の明確な違い

俗世を離れた知的会話とは、まず、身近な人の名、固有名詞を引っぱり出さないことである。共通の知人の名前が出ると、どうしても、会話はゴシップに終る。ゴシップからはネズミ一ぴき出ない。害あって益なしである。つぎに、過去形の動詞でものを言わないことである。「……であった」「……した」という語り口もとかくゴシップがかる。「……ではなかろうか」「……と考えられる」といった表現を用いていれば、創造的なことが生れやすい。

ことわざを考えよ

一般化して、なるべく、普遍性の高い形にまとめておくと、同類のものが、あとあとその形と照応し、その形式を強化してくれる。つまり、自分だけの〝ことわざ〟のようなものをこしらえて、それによって、自己の経験と知見、思考を統率させるのである。そうして生れる〝ことわざ〟が相互に関連性をもつとき、その人の思考は体系をつくる方向に進む。そのためには、関心、興味の核をはっきりさせる。その核に凝集する具体的事象、経験を一般的命題へ昇華して、自分だけのことわざの世界をつくりあげる。このようにすれば、本を読まない人間でも、思考の体系をつくり上げることは充分に可能である。

所感

  • 大学生協で誰もが一度は見たことのある本
  • 読んでみたところ想像以上に古い文体で読みにくい文章でベストセラーになるほどポップな本ではないと感じた。
    • 「東大京大でこの10年で一番読まれた本」「もっと若い時に読んでいれば…」といった秀逸なキャッチコピーがロングセラーに大きく貢献している印象を持った。
  • 受け身のグライダー人間と自発的な飛行機人間というアナロジーは他の本でも見かけたことがあり、本書が元になっていたのは驚きだった。
  • 1983年に書かれた本ということで情報の整理の方法についての記述は新聞のスクラップや手帳、ノートなどを用いていたため、Notionで同じことをやるならどうなるかという視点で読む必要があった。
  • 「ゴシップと創造的な会話の明確な違い」は自分の好きな会話と嫌いな会話について明確に言語化されていて良かった。
  • ことわざこそが抽象化であり、自分だけのことわざを作り上げよというのは新しい視点だった。
Last updated on Nov 16, 2022 00:00 JST
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