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38/ 身銭を切れ

ナシーム・ニコラス・タレブ氏が書いた不確実性の元での生き方についての本

ナシーム・ニコラス・タレブ氏が書いた不確実性の元での生き方についての本

身銭を切るとは何か

  • その人間が身銭を切っているかどうかで信頼できるかどうかを判断する

  • 身銭を切らなければ偉人足り得ない

歴史的に武将や戦争屋たちはみな自分自身が戦士であり、社会はリスクを転嫁する連中ではなく、リスクを冒す人々が統治してきた。

過去の偉人たちは一般市民よりも遥かに大きなリスクを冒した。避けられぬ死に堂々と向き合った。

イギリス王室は、1982年のフォークランド紛争の際、王室の成員のひとりであるアンドルー王子に〝平民〟よりも高いリスクを負わせ、戦線でヘリコプターを操縦させた。なぜか? いわゆる高貴たる者の義務というやつだ。元来、貴族の地位は、名声と引き換えに個人的なリスクを負い、ほかの人々を守ることで得られるものだった。

戦士をトップに据えないことが文明だとか進歩だと思う人もいる。それは違う。

  • 失敗の代償を背負わなくてすむ意思決定者 = 身銭を切らない意思決定者をなるべく少なくすることが重要

    • 肥大化した組織は官僚的になるので、分権化や局所化が鍵
  • リスク転嫁のメカニズムは学習も妨げる、身銭を切らない限り進化は起こり得ない

    • 身銭を切らないことには「倫理的な悪影響」と「知識に関連する悪影響」の両方がある

学習しないのはヤツらが失敗の被害をこうむっていないからだ。

身銭を切っていないとたいてい愚鈍になる。

私は予測の下手な金持ちと予測の得意な貧乏人の両方を知っている。

重要なのは結果の予測を的中させる頻度ではなく、的中させた時にどれだけ儲けるかだ。

  • 身銭を切ることでシンプルさにこだわれる

身銭を切らない連中の設計した物事はどんどん複雑になる傾向がある。 成果ではなくイメージで報酬を受け取る人は、とにかく高度なものを披露しなければならない。

  • 起業家とエセ起業家

起業家は社会の英雄だ。私達のために失敗を肩代わりしてくれる。 オーナーの名前を冠する商品や企業はものすごく貴重なメッセージを発している。「私には失うものがある」と大声で叫んでいるのだ。

英雄に本の虫はいない 英雄たちは行動家であり、リスク・テイクの精神を持っていたに違いない。

売却や上場だけを目標とするエセ起業家がやっているのは4歳で売りさばくためだけに高い値がつく可愛い子供を生むのと同じだ。

少数決原理 (Minority Rule)

  • もっとも不寛容な少数に合わせてあらゆる仕組みが作られる
    • 犯罪者に合わせて作られる法律
    • ビーガンに合わせて作られる食事
    • 一番話せる言語が少ない人々に合わせて決まる共通言語

ほんの一握りの人々だけでも針を不釣り合いなほど大きく動かすには十分なのだ。 必要なのは非対称的な規則と魂を捧げる人間だけ。そして非対称性はあらゆるものに潜んでいる。

生きるとはリスクを冒すこと

  • VRでの体験は現実の体験と同じであることはありえない

人生とは犠牲とリスクテイクだからだ。 リスクを引き受けるという条件のもと、一定の犠牲を払わない限り、それを人生とは呼べない。 取り返しがきくかどうかに関わらず、実害を被るリスクを背負わない冒険は冒険とは呼ばない。

  • 傷跡こそが身銭を切っていることを示すシグナルだ。そういう人に人々はついていく。

エージェンシー問題

  • この世の物事は量が変化すると根本的に構造や性質が変わってしまうもの
  • なので、ミクロとマクロを同一視することは危険である

「知的バカ」は、一人ひとりの個人を理解すれば、集団全体や市場全体が理解できる、と考えている。

  • エルゴード性 = システムを十分に長い時間観察すれば、その平均的な振る舞いは、その時点でのすべての可能な状態の平均的な振る舞いと一致するという性質 を持たないシステムが現実世界には多い

普遍的な原則

  • リンディ効果とは

リンディ効果の基本的な主張は、非生物的なものの寿命は、その存在期間に比例するというものです。つまり、ある本が50年間読まれ続けているならば、少なくとも今後50年間は読まれ続けるでしょう。逆に言えば、新しいアイデアや製品が出現しても、その寿命を予測するのは難しいです。なぜなら、それが長期間存続する証拠がまだ得られていないからです。

これは、新しいものが必ずしも良いとは限らず、時間を経て生き残ってきたものこそが耐性と価値を持つという考え方

  • 認知的不協和

    • 自分の都合の良いように考えてしまうこと

    イソップ童話でグレープを取れなかった狐は「あのグレープは酸っぱいに違いない」と考えて諦めてしまった

  • グリーン材の誤謬

    グリーン材に詳しい人材が破産し、グリーン材がなにかも分かっていない人が儲けた。私達が重要だと思いがちな物事がかえって価格メカニズムの本質から目をそらせる場合もある。

  • ゴルディアスの結び目

    • 複雑な結び目を解くことを目的に人々が競っていたが、アレクサンドロス大王は剣で結び目を一刀両断にしたという逸話
    • 知的バカにならず、実践することでウルトラCの選択肢が見えてくる
  • 身銭を切ればうわべは重要ではなくなり、本質に拘れる

    • 身銭を切らないとどんどん複雑なでたらめが膨らんでいく
  • 善を行いたくば、身銭を切れ

善とは集団のために何かをすること。特にあなた自身の利益と食い違うような行動を取ることだと定義できる。

善とはみんなに優しくされている人に自分も優しくすることではない。 本当の善とは他に人に見放されている人たちに優しくするということなのだ。

ときどき、〝人類の役に立ちたい〟という若者が私のところへやってきて、「そのためにはどうすればいいでしょう?」と訊いてくることがある。 彼らは「貧困を減らしたい」「世界を救いたい」といったマクロレベルの立派な夢を持っている。私のアドバイスはこうだ。

(1)決して善をひけらかすな

(2)決してレントシーキングを行うな

(3)是が非でもビジネスを始めよ。リスクを冒し、ビジネスを立ち上げろ

そう、リスクを冒すのだ。そして、もしも金持ちになったら(必須ではない)、他人のために惜しみなくお金を使えばいい。 社会には、(有限の)リスクを冒す人々が必要だ。 ホモ・サピエンスの子孫たちをマクロなもの、抽象的で普遍的な目的、社会にテール・リスクをもたらすような社会工学から遠ざけるために。 ビジネスは、経済に大規模でリスキーな変化をもたらすことなく経済活動を行えるので、いいことずくめだ。

開発援助業界のような機関も世の中の役に立つかもしれないが、害を及ぼす可能性も同じくらいある(これでも、楽観的に述べている。ほんの一握りの機関を除けば、結局のところ有害だと私は確信している)。

勇気(リスク・テイク)は最高の善だ。世の中には起業家が必要なのだ。

「レントシーキング(rent-seeking)」は、リスクを取らずに報酬だけを得ようとする行為。経済学の用語で、企業や個人が経済的利益を得るために、競争を通じてではなく、政府などの公的機関から特権を獲得する行為を指す。

レントシーキングは、社会全体の経済的効率を低下させる。 なぜなら、レントシーキング行為は経済全体の「パイ」を大きくするための新しい価値を生み出すのではなく、既存の「パイ」を再分配することに注力しているからだ。 これにより、レントシーキング行為が盛んになると、社会全体としての資源の浪費や不公平な富の再分配が起こり、経済成長が阻害される。

  • 勇気とは自分自身よりも上の層の生存のため、自分自身の幸福を犠牲にすることである。

集団を救うために個人的なリスクを冒すのは集団のリスクを下げる行為なので、「勇気」であり「思慮深さ」である。

私の寿命は限られているが、人類は永遠に存続しなければならない。

私は替えが利くが、人類や生態系は替えが利かない

破滅を避けつつ、リスクを愛せ

  • テールリスクを避けつつ、リスクを冒す

破滅を含むような戦略では、利益が破滅リスクを帳消しにすることは決してない

ウォーレン・バフェットは高い基準を設定し、その基準をクリアしたチャンスだけに狙いをつけた。「真の成功者はほとんどすべてのことにノーと言う。それが並の成功者と真の成功者との違いだ」と彼は言った。

テール・リスクなんて冒さなくても、お金を儲ける方法はごまんとあるし、未知の吹っ飛びリスクや脆さを持つ複雑なテクノロジーなんて使わなくても、問題(たとえば、世界の食糧問題)を解決する方法はごまんとあるからだ。 「われわれは(テール・)リスクを冒す必要がある」なんて言葉を聞くたび、そいつが今まで生き抜いてきた実践家ではなく、金融関係の学者か銀行家だとすぐにわかる。

『反脆弱性』では、人々が破滅リスクを変化や変動と混同しているという話をした。

このような単純化は、より奥深くて厳密な物事の道理に反する。 私は、リスクを積極的に冒すこと、体系的で〝凸〟ないじくり回しを行うこと、テール・リスクはないが大儲けの可能性があるリスクをたくさん冒すことには賛成だ。 変動性のある物事がすべてリスキーなわけではないし、その逆もまた成り立つ。

Last updated on May 17, 2023 00:00 JST
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