Data Collective(DCVC)のAli Tamaseb氏が書いた創業者に関する統計を集めた本
私は何年も前から抱えていた疑問に答えるべく、あるプロジェクトを始める決意をした。その疑問とは「評価額 10 億ドルを達成するスタートアップは、起業したばかりのときどのような会社だったのだろうか」 である。起業1日目から群を抜いていたのだろうか。もしそうなら、何が他と違うのだろうか。
創業者
単独での起業か、共同創業か
1人で会社を始めたほうが、明らかに有利なことがいくつかある。 創業者どうしの対立――性格の不一致、権力争い、ビジョンの不一致――は、スタートアップが失敗する大きな原因の1つだ。 データを見ると、なぜ単独創業者のほうがうまくいくかわかる。
実績を持たない人は共同創業者の力を借りて、会社のビジョンをつくり、人材を集め、投資家とのツテをつくらなければならない。
おそらく創業者の数より重要なのは、彼らがよい関係を築いているか、そして互いにどう協力するかである。
- 共同創業の場合はCEOをハッキリさせる
共同創業者がいるときは、責任が明確に分担され、CEOが誰か最初から決まっていて、互いに意思疎通能力が高いとうまくいくようだ。
「創業者が対立する最大の理由は、役割や意思決定に重複が多い、どちらも自分が責任者だと思っている、最終的な決定は自分が行なうべきだと思っている、などです」と、イラッド・ギルが私に言った。 最初は友好的でも、会社の方向性について難しい決定を行なわなければならないときは、誰が最終決定を行なうか確認しておくことが不可欠なのだ。 「そして一定のリスクを負い、会社として成功を目指すには、単一のビジョンが必要です」。
- 優れた人材には共同創業者の肩書はケチらずに与える
〈共同創業者〉は事業で必須の役割ではないし、また何人いようと会社の成功とは関係ない。 成功するには創業者が2人でなければならないという誤った思い込みのために、会社設立の協力者に〈共同創業者〉という肩書を与えなかったケースを何度か見てきた。 もし必要なスキルがあるなら自分だけで始めればいいし、優れた人材を集めるのに必要なら、一部あるいはすべての協力者に共同創業者の肩書を与えるのもいい。 ただし業務の実行と意思決定を遅らせてはいけない。
専門知識よりも学習能力
重要なのは特別な業務セクターの専門知識を持つことではなく、一定のソフトスキル(優れた社員を雇い、その人たちを管理する、業界全体へのつながりやパートナーシップを築いて維持する、販売力を高める、課題について適切に考える)を身につけることのようだ。 直接関連のある業務経験については、10億ドル達成企業グループと無作為グループの間に有意な差はなかった。 その領域の経験の有無で成功率が変わるわけではなく、そのため全体的に有利にも不利にもならない。
2回目の起業のSuper Founderが有意に成功確率が高い
ベンチャーキャピタルの世界では、初めて会社をつくる人々の売り込みを多く目にする。 しかし 10億ドルを達成したスタートアップ企業に目を向けると、なるほどと思うパターンが浮かび上がった。 創業者の 60パーセント近くが、以前にもスタートアップ企業を始めた経験の持ち主だった。 スタートアップ企業の初期〈従業員〉ではない――〈創業者〉であり、ほとんどのケースでCEOを兼ねていた。 前のベンチャーが大成功の場合もあれば、大失敗に終わった場合もあった。 重要なのは、会社をつくったのが初めてではないということのようだ。
一度でも前に会社をつくった経験があると、たとえそれがあまり成功しなかったとしても、いつか 10 億ドルを超える価値を生む会社をつくる確率が高まるということだ。
もちろん前の会社も成功しているに越したことはない。 たとえそこそこの規模でも、会社を育てたことがあればそれが実績となり、次の起業が楽になる。 10億ドル達成企業グループでは、前の会社でも成功したケースが70パーセントに達していたが、無作為グループでは24パーセントにとどまっている。 これは有意な差である。
一度成功している創業者のほうが、 10 億ドル達成企業を生み出す可能性が高い。これが私の調査で明らかになった、 10 億ドル達成企業グループと無作為グループでの最大の違いである。
私はこうした起業家を〈スーパーファウンダー〉 と呼ぶ。 定義としては、 ベンチャーキャピタリストから資金調達したかどうかを問わず、少なくとも一度会社を立ち上げて、1000万ドル以上で売却した、あるいは収益が1000万ドルを超えた経験を持つ創業者、である。
この話の教訓は、 スタートアップ企業に初期から加わりたいなら、スーパーファウンダーがつくった会社をさがすほうが成功の確率を高められる、ということだ。
成功する以前の経験がきわめて重要らしいのは確かで、それには多くの理由がある。 リピート創業者は、ベンチャーキャピタリストや投資家にアクセスしやすく、資金を集めやすい。 強力なネットワークを持ち、その中から起業時の社員やアドバイザーを集められ、顧客になりそうな人を紹介してもらえる。 彼らはまたスタートアップ企業の経営に求められるものをよく知っていて、間違いを繰り返す危険が少ない。
スーパーファウンダーにとって、一度でも運に恵まれることが、評判とネットワークづくりに役立ち、それに加えて才能と勤勉さによって、はるかに大きな結果を生んでいる。 しかし重要なのは、そのような創業者たちが、その運が実際の形になるまで事業を続けたことだ。 よく言われることだが、運をつかむには必死で働かなくてはならない。
データを見ると、数十億ドルの価値を持つ企業をつくるための準備として一番いいのは、まず数千万ドルの企業を生み出すことだ。
過去に失敗した経験がある人が次の挑戦で成功する確率は1・6倍、そこそこの金額でイグジットを果たした人(ベンチャーキャピタルの世界では失敗とみなされることが多い)の場合は3・3倍高くなる
これからの起業家が覚えておくべき教訓は、最初から 10 億ドル達成企業を目指す必要はないということだ。スーパーファウンダーへの道は、何かをつくる、問題を解決する、良いことも悪いことも受け入れて乗り越える熱意を持ち、目的地に着くことではなく、そこまでの過程を楽しめるかどうかだ。
多作であること
スーパーファウンダーの定義に当てはまらなくても、 10 億ドル達成企業を生み出す人は、ものをつくらずにいられない。 たとえばマーク・ザッカーバーグ。 よく知られている通り、ハーバード大学の寮でフェイスブックを生み出したとき、彼は19歳の天才少年で、実際の就業経験はなかった。 しかしそのころ彼はすでに他に3つのプロジェクトを完成させている。 ハーバードの学生が授業を選ぶのを助けるコースマッチ(CourseMatch)、ハーバードの学生を魅力でランク付けするフェイスマッシュ(FaceMash)、そしてシナプス・メディアプレーヤー(Synapse Media Player)。
ザッカーバーグの初期のプロジェクトの1つであるシナプスは、デスクトップの音楽プレーヤーだった。 それはスポティファイの原型のようなもので、使っているうちにユーザーの音楽の好みを学習するアルゴリズムを利用していた。 彼はそれを1999年、高校生のときにつくった。 マイクロソフトがそのアプリを 95 万ドルで購入オファーしたという噂だったが、ザッカーバーグは結局それをオープンソース化し、ハーバード大学に入学した。 ザッカーバーグはクラスメイトのアダム・ディアンジェロとシナプスの開発に取り組んだが、ディアンジェロもまたものをつくるのが趣味だった。 ディアンジェロはその後、クオーラ(Quora)を設立した。 これはユーザーどうしが質問・回答し、関連する広告を表示するコミュニティサイトで、やはり 10 億ドル達成企業となった。
ボックスの創業者アーロン・レヴィは高校時代、もっぱら親のホットタブで、友人たちと会社のアイデアを話し合っていた。 実際につくったものもある。 たとえば家を売買するウェブサイト。レヴィが「グーグルを使ったことがなければ世界最速*9」という検索エンジンだ。
フラティロン・ヘルスの創業者ナット・ターナーは、大学時代にオンデマンドの食品宅配会社を、その前にはギフト券の交換サービスを始めていた。 ブレックスの創業者エンリケ・ドゥブグラスは、ブラジルでB2Bの決済処理会社を高校生のときに始めた。
「私はペイパルの前に、他のスタートアップをいくつもつくりました。そのうち4つはきっと聞いたこともないでしょう。ペイパルは5番目の会社です。」マックス・レブチン
事業
アイデアは一瞬でひらめくものではない
「成功した起業家が、商売になりそうなアイデアを必死にさがし回っていた数か月間のことを話すことはめったにない」
一瞬でひらめいたアイデアをもとに起業する人もいるが、多くは数か月、場合によっては数年間かけて、慎重かつ入念にアイデアの具体化(アイディエーション)に取り組んでいる
Pivot
- 余裕があるうちにPivotする
「自分のキャリアから学んだ一番大きなことは、間違いなく〈とにかくでっかい運をつかめ〉ということです」とバターフィールドは言う。 「ただ現実として、運頼みではない面があったとすれば、選択肢があるうちにあきらめる決断をしたことでしょう。 あの決断[グリッチを終了したこと]をしたとき、まだ時間も金も十分にあったからこそ、他のことに転換できたんです」。
ピボットでもっと重要なのは、それを実現して、最後まで見届ける力を持っていることだ――つまり銀行に資金が残っているということである。 これはピボットに直面したとき起業家がコントロールできる数少ない部分であり、プロダクト・マーケットフィットがわかるまで[市場に適合する製品が見つかるまで]、キャッシュは節約すべしという強力なアドバイスだ。
創業者が途中で方針を大きく転換するということは、特定のアイデアを世に出すという目標にこだわる、つまりミッション第一ではなく、むしろ新しいものをつくることにこだわっている証拠だ。 彼らは好機をうかがい、マーケットの声に耳を傾けることをためらわない。
ものごとを決定するとき、感情的なこだわりのない人は、先にやるべきことを見抜くことができる。 ――アンディ・グローブ インテル元CEO
B2C企業では、プロダクトに対して顧客獲得コストが高すぎると創業者が気づき、企業向けのプロダクトに変更したいと考えたときに、このような転換が起こる。B2B企業では、顧客販売サイクルが長くなりすぎて、直接一般消費者をターゲットとしたほうが苦労が少ないと判断したときに起こる。
こうしたピボットをやろうとしているなら、顧客のニーズが本当に存在していることを証明することだ。販売サイクルの長さや顧客獲得コストの高さは、市場の需要がないことを示している可能性があり、それを確認することのほうがはるかに重要である。
- ゼロベース思考でPivotする
一般的に「ピボットはほとんどうまくいかない」というのはエンジェル投資家のイラッド・ギルだ。 「うまくいかない理由は、同じマーケット内でピボットしようとするが、そのマーケット自体がよくないことが多いからだ。問題はサンクコストが高すぎると感じ、自分たちが開発した既存のプロダクトをどうにかして使おうとすることだ」。 ギルは創業者が「土台からやり直し、最初の原則から始める」ほうがうまくいくことが多いと、私に語った。
- 熱意は確認する
最後に、あなたと共同創業者が、新しい市場で、新しい顧客のために、再び会社をつくることに本当に熱意を注げるか、確認しておこう。 これから 10年、自分で決めたビジョンに従い続けることが想像できないなら、会社を閉じて投資家に(あるなら)金を返すほうがいいだろう。
ビタミン剤か痛み止めか
これによると、金銭や時間を節約するスタートアップ企業のほうが、利便性や他のカテゴリーを重視する会社よりも、優位にあることがわかる。
プロダクトの差別化
高度に差別化されたプロダクトをつくるときに大事なことは、〈初心者のままでいること〉――複雑にしすぎてはいけない。私はそれをスティーヴ・ジョブズから学びました。スティーヴはいつも、顧客の目でプロダクトを見ることを要求しました。
マーケット
すばらしいチームがひどいマーケットに当たると、マーケットが勝つ。 ひどいチームがすばらしいマーケットに当たると、マーケットが勝つ。 すばらしいチームがすばらしいマーケットに当たると、何か特別なことが起こる。
――アンディ・ラフレフ ベンチマーク・キャピタルとウェルスフロントの創業者
- 新たにマーケットを生み出す事業か、既存マーケットのシェアを奪う事業か
突き詰めればマーケットを新たに生み出すスタートアップのほうが大きくなると思われがちだが、実際はそんなことはない。実を言えば、シェアを争う企業のほうが、やや大きな価値を生んでいるのだ。
MOAT
- ネットワーク効果の種類
最高のネットワーク効果が生じるのは、必要最低限のユーザー数というものがないときだ。それで2つのプラットフォームがユーザーにとって同じように価値あるものになる。たとえばリンクトインはとても強力なネットワーク効果を持っている。この場合、みんな幅広いタイプの人々と交流するので、ユーザー数は問題ではない。こうして、最大の会員数とアップデートされるキャリア情報を備えたプラットフォームが常に選ばれることになる。 対照的に、ピアツーピアの融資の場合は、必要最低限の数のユーザーがプラットフォームに集まって初めて、他と同じくらいの価値を持つようになる。その場合、入り口を狭くすることと専門化で、ネットワーク効果による持続的競合優位性を破れるかもしれない。
資金調達
とにかく、まずは利益が出る構造を作る
自己資金にせよベンチャーキャピタルにせよ、できるだけ早く、できるだけ最低限の投資で、自社のプロダクトにマーケットが反応するかどうか理解することが重要だ。大金を投資したあとでマーケットに需要がないことに気づいた、不名誉なスタートアップの例もいくつかある。
私から創業者へのアドバイスは、 VCから資金調達できないという前提で、企業経営を考えろ ということだ。どうやって利益を出すか。まずどんなプロダクトをつくるか。
創業者はユニット・エコノミクスを早いうちから考えるべきだ。またどうすれば現在のコストで利益を得られるのか、もっと資本効率のいい事業のやり方があるのかを考える必要がある。
取締役
理想的な取締役会メンバーとは、問題を拡大するのではなく、CEOのためのショック・アブソーバー(緩衝装置)として働く。つまり問題が起きたときCEOが最適な決定をするのを助ける、あるいは巨額の出資にふさわしいものは何か、CEOが判断する手助けができる人物だ。
ブレックスのエンリケ・ドゥブグラスは、取締役会は「会社がどのような状況かを説明する場であるべきではない」と私に語った。ブレックスは事前にスライドを送り、取締役全員からコメントと質問を伝えてもらう。取締役会の場では、戦略的問題をいくつか話し合う。「取締役会の進行方法として、それが一番効率的だと思う。投資家が時間があるときに質問を考えてもらい、会議の場では、彼らからの意見が欲しい問題や、解決したい問題を話し合います」。
- 弱みを見せられる関係にしておく
投資家やパートナー、取締役会メンバーに、うまくいっていないことを何でも話せるような関係を築き、助けを求めることです。 起業家の多くは本当に悪いことが起こりそうになるまで、そういう弱みを見せまいとするようですが、それはばかげています。そうした弱みと、投資家との関係を、1日目から持つことです。
Valuation
アーリー・ステージにおける価値とは、その企業が投資ラウンドでどのくらいの額を調達できるかで決まることが多い。
テック分野のスタートアップの最初の何度かのラウンドでは、ラウンドごとにオーナーシップ[株式]の合計 15 パーセントから 30 パーセントが投資家に与えられる。リード・インベスターがラウンドの半分から3分の2を取り、他の少額投資家が残りを取り、創業者と従業員のオーナーシップはその割合によって希薄化される。
例をあげると、あるテック企業がシード・ラウンドで250万ドルを調達したとすると、資金調達後のバリュエーションはおそらく850万ドルから1250万ドルの間になり、投資家にオーナーシップの 20 ~ 30 パーセントが与えられる。また企業が500万ドルを調達すれば、おそらくバリュエーションは1600万ドルから2500万ドルの間になる。
資金調達はフェーズごとにリスクを減らしていくためのもの
資金調達は次の目標に到達するのに必要な金額に基づいて行なうべきだ。
リスクの層は〈プロダクトリスク〉と同じくらい幅広いこともあるが、観念的にはリスクの層は起業家によって、もっと特別な意味を持つ明確なものとして定義されるべきだ。 ユニット・エコノミクスに関するリスクはあるのか。つまりデバイスやサービスの各ユニットの生産・マーケティング費が、コストを超えることはないだろうか。新たな顧客獲得費用が、販売価格の決まった割合を超えるリスクはないだろうか。あるいは〈フリーミアム〉[基本的サービスは無料で、付加的でもっと高度なサービスは有料になる形態。フリーとプレミアムを合わせた造語]のユーザーが有料ユーザーにならないリスクは?
10 の違う課題に取り組んで、それぞれ部分的な成功を得るよりも、スタートアップ企業はリスクの層について考え、資金調達を含めて、それぞれのラウンドで1つか2つのリスク層を減らすことに、力のすべてを注ぐべきだ。
創業者は自社のリスクについて明らかにするべきだ。すべてのスタートアップが例外なくリスクを抱えているのだから、それを先に出しておくほうがいい。私が見た最高の投資は、リスクをすべて理解したうえでVCと創業者が協力し、意識的かつ原則にそって資金を使って1つずつリスクを取り除いていくという形である。 理想のシナリオを言えば、VC投資家が1つの件についての調査と情報収集を続け、利点だけでなく、うまくいかない可能性のあるところをすべて認識する。
ちょうど良い金額を集める
資金調達するときは、ちょうどいい額を集めることが重要だ。カトリーナ・レイクが指摘しているが、 あまりに多くの額を集めて好きなように資金を割り振れるようになると、経営チームが集中できず、コアビジネスの成長を妨げる現実的な問題を理解するのが難しくなる。逆に資金が足りなければ、チームに不要な節約の圧力がかかり、士気に悪い影響を与える。
ピッチの構成
ピッチをどう組み立てればいいか、私たちの考えを披露しましょう。これとまったく同じ順番である必要はありませんが、なぜ自分たちの会社が重要なのかについて、考えを整理する 1 つの方法です。
1.会社の目的
2.課題(問題)
3.ソリューション
4.なぜいまなのか
5.市場規模
6.競合
7.プロダクト
8.ビジネスモデル
9.チーム
10.財務
事例
Brexのエンリケ・ドゥブグラス
- 最初の2つのアイデアは上手く行かなかった
僕は他のブラジル人学生に、アメリカの大学への入学と出願についての情報を提供する会社を起こそうとしました。 ユーザーはたくさん獲得できたけど儲けにはならず、それに金を払おうという人もいませんでした。 でも僕はコードが書ければ何かつくれるとわかっていたので、マイアミでハッカソンがあると知ったとき、2人の友人と一緒に参加することにしました。 そのとき僕はアスクミーアウト(AskMeOut)というアプリをつくりました。 これはティンダーみたいなマッチング・アプリでしたが、近くにいるまったく知らない人を対象にするのではなく、フェイスブックの友達リストを使ったものでした。 僕らは賞を取ってブラジルに戻り、それを売り出そうとしました。 でもビジネスとしてはあまりうまくいきませんでした。
- 3つ目の「ブラジル版Stripe/Paypal」をMA
僕らはペイパルやストライプみたいなもの、ただしブラジル国内のものをつくりたいと思っていました。 ソフトウェアだけの話ではないので、かなり複雑です。 金融ビジネスなので、ブラジル中央銀行から直接規制も受けます。 社員は一時期150人いました。 その事業は2年半続きましたが、そのとき僕とペドロは20歳になったばかりでした。
でも若かったからこそつかめたチャンスもたくさんありました。 マスコミが関心を向けてくれたし、僕らは何も知らなかったから、アドバイスを求めたり、メンターをさがしたりすることにためらいはありませんでした。
ペドロも僕もスタンフォードの入学許可をもらえましたが、会社を立ち上げるため、入学を2年遅らせていました。 でも 20歳になって、それ以上延期できなくなりました。 初めて設立した会社で、何とかイグジットを果たして金を手にしたかった。 いい言い方じゃないけど、創業者はみんな考えるでしょう? この会社を売却したことで人生が変わりました。 そして2016年9月にスタンフォードに入学して、ようやく夢をかなえたわけです。 でも3か月もすると、もう勉強したくなくなってしまいました。別の会社を始めたくなったんです。
- VRのアイデアでYCへ、法人カード事業にPivot
決済と金融にはもう飽きていて、何か最先端なことをしようと思いました。 そこでバーチャル・リアリティのアイデアを持って、Yコンビネーターに行きましたが、2~3か月たつころには、それについては何も知らないことに気づきました。 それでまた方針転換して、よく知っている決済事業に戻ったんです。 Yコンビネーターで、クレジットカードを持てない企業がたくさんあることを知り、スタートアップ企業向けのクレジットカードをつくることを思いつきました。
- 最初の10人に10%
最初に雇った人たちには、多くの株式を与えました――最初の 10 人に 10 パーセント。 現金での報酬もかなり気前よく出しました。 スタートアップはリソースが限られていることが多いけれど、僕らは2回目の起業でもあり、シード・ラウンドにかなりの額を集められたので、高い給料を払うことができました。 ブレックスは総額報酬(給料だけでなく福利厚生や保険も含めた総報酬)で数字を出し、雇われる側が現金と株の比率を選べるようにしたんです。
- 必要以上に高い人を雇わない
1つ学んだことは、どんな仕事であれ、必要なレベルよりはるかに高い学歴や経験を持つ人を雇わないことです。 僕は以前「カスタマーサポートに人をたくさん雇わなくてはならないなら、全員ハーバード卒であるべきだ」と思っていましたが、それはいい考えではありませんでした。 社員には仕事に熱意をもって取り組んでほしい。 その役割を心の底から望んでいて、ばりばり働ける若手を雇おうとしています。
Instacartのマックス・マレン
僕が最初に働いたのはロサンゼルスにあるスキーマティック(Schematic)というインターネット広告の会社でした。 僕が入ったときは社員40人だったけれど、6年後に辞めるときには400人になっていました。 そこでの経験でキャリアが変わったと思います。 入ったときは大学でビジネスを勉強していたので、仕事をしながら大学へも行っていました。 大学では経営理論を学び、職場では実際に何かをつくるのを手伝っていました。 そのうち会社で顧客サービス部門の長になりましたが、本当は起業をしたかったので、そこを辞めてスタートアップを目指し始めたんです。
- 自分が熱意を持って取り組めることをやる
自分たちでつくったプロダクトなのにわくわくできなくなり、会社を売却する決断をしました。 そこで得た苦い教訓を、ぜひ僕がエンジェル投資家として会う起業家たちに伝えたいです―― 自分が熱意をもって取り組めることをやらなければならない、ということです。
Githubのトム・プレンストン・ワーナー
僕はそこの 32 人目の社員でした。それで1万ドルくらいもらったかな。マイクロソフトは1億ドル出したのに、僕は1万。買収を経験すると、創業者と従業員はまったく違うことを思い知らされるんです。たいていかなりの差がありますから。
僕はいつも、本業とは別に自分のやりたいこと、サイドプロジェクトに取り組んでいました。 その1つがグラバター(Gravatar)という、ブログ上でユーザーについて回るアバターです。コストがかかっていたので、僕はそれを売りたいと思っていました。でもビジネスプランは何もなかった。けっこうな人気になっていたんですが。
僕らは一緒にギットハブに取り組み始めましたが、お互い業務時間外にやっていました。彼は生活費を稼ぐためにフリーランスとしてプログラミングをして、僕は生活のためにパワーセットで働いていました。 6か月たったころパワーセットが買収され、僕はそのままマイクロソフトの検索エンジン、 Bing の仕事をオファーされました。僕がそれを断ったのは、ギットハブに手ごたえを感じていたからです。このころには金を稼げていましたから。
ギットハブに取り組んで6か月たったころ、最初の試作品を公開して、いろいろな人に使ってもらうようにしました。その3か月後から課金するようになったんです。 つまり着手して9か月でお金を取れるようになったわけです。
Founders Fundのキース・ラボア
私にとっては、その業界の知識がない人のほうがずっと好ましいんです。ペイパルで金融サービスについて知っている人は、会社全体で2人か3人しかいませんでした。セコイアでは、意識的に、金融サービス業界出身の社員は少なく抑えていました。スクエアの社員400人のうち、金融サービスについて少しでも知っている人も、ごくひと握りでした。 特にイノベーティブな企業ほど、その領域の専門家は多くないと思います。企業向けソフトウェアの会社になると、話はちょっと違うかもしれません。ルールも違うかもしれない。私はふつう企業向けソフトウェア会社に出資はしないのです。
創業時に出資するときは、 創業者とマーケットの適合性 ではなく、創業者の特性を見ます。ポール・グレアム(Yコンビネーター創業者)の言葉で、私が特に好きなのが「絶えず頭を働かせろ(relentlessly resourceful)」 です。 これは絶対です。頭のよさはかなり重要だと思います。他の人が見ない角度からものごとを見る。突き詰めると、私が求めるのは、この知的な迷路を進んでいける人です。
- マーケットタイミングは言い訳
私はマーケット・タイミングも信じません。これはきっと反発を受ける意見の1つでしょうね。私の頭の中で、タイミングというのは常に言い訳なんです。起業家の目標は、会社の行先を現実世界と一致させることです。会社あるいは創業者がそれができなければ、それは創業者に能力がないということです。
実際の例をあげてみましょう。私が初めてジャック・ドーシー(スクエアとツイッターの共同創業者)に会ったとき、コーヒーを飲みながら、差し向かいでスクエアについて話しました。 2 人とも、一番望ましいのはハードウェアの装置を使わないで決済できるデジタル・プロダクトだと考えていました(スクエアは店頭で支払いできる機械を使って、販売者が楽に代金を回収できるようにすることを目指す)。 ハードウェアをつくるのは難しかったんです。金もかかるし、故障もする。生産は中国でしなければならない。いろいろ問題があったんですね。 ジャックが並はずれて優秀な起業家だったのは、いまとなっては証明されていますが、そのとき彼はこう言ったんです。「ハードウェアが必要だ。スクエア専用の機械、スクエアの決済用カードリーダーだ。誰もがすぐにオンライン決済に移れるわけじゃないんだから」。 これは2010年の話です。まだ誰もが携帯電話でインターネットにつながるわけではなかった時代です。彼は言い訳はしませんでした。結局、iPhoneのヘッドホン端子に差し込める機械をつくったのです。それで私たちはマーケットを他より早く開拓し、規模拡大し、ブランドを築き、利用業者の基盤を整備して、マーケットとテクノロジーが追いつくのを待つことになりました。
タイミングという言葉を聞くと、つい〈無能な起業家だ〉と思ってしまいますね。