WIREDのケビン・ケリー氏が書いたテクノロジーの未来予測本
テクノロジーはReplaceではなくStackする
一般的にテクノロジーは、どんどん累積していきます。 古いものが消えてしまうことはほとんどありません。現在のようにフェイスブックやグーグルといった超巨大企業がある時代でも、夫婦で経営する小さなレストランは残っていますし、それらは消えるどころか、以前にもまして増えています。ですから株主が支えるグローバル企業が消えてしまうということもないでしょう。たぶんそれに加えて、もっと多くの組織が作られるはずです。
- 選択肢が増えることが重要
キックスターターは商用の会社に取って代わるものではなく、もう一つの選択肢なのです。そしていま話題にしているような組織は、何かを成し遂げようとするときに、いろいろな方法の補完的な役割で何かを足していくものになります。
唯一言えることは、選択肢がいろいろと広がっているということです。いままでは一つしかなかった方法が増え、昔のやり方も残したうえで新しいやり方を活用するのです。
AIはデジタル化や産業革命よりも大きな革命
AIはこれから五十年間にわたって、オートメーション化や産業革命に匹敵する、もっと大きなトレンドになるでしょう。様々なものに知性や感情を組み込むことで、新たな産業革命のような変化が起きるということです。
- インターネットに加えて、AIによる生産活動のサポートによって、クリエイティブな生産活動をして、Thousands true fansをつける生き方がより身近になる
私は以前から「もし何千もの『本当のファン』を獲得すれば、多くのクリエイターは一生食べるのに困らない」 と提唱しています。未来に使われるAIのイメージは、多かれ少なかれ繰り返しの多い退屈で効率が求められる仕事用ですね。そうした面倒なものはAIに投げて、自分たちは自由になって、もっとクリエイティブで効果的な仕事にいそしむという話です。
ユーチューブなどなかった二百年前にも、農家の中には家の裏庭で誰も褒めてくれない変な彫刻などを作っている人もいたでしょう。しかしいまでは、農家でも世界中とつながることができるようになり、その彫刻をすごいと評価してくれる人が千人程度いるかもしれないのです。昔はそんなことは無理でしたよね。 今は、 百万人に一人でも面白いと思ってくれる人がいればいい のです。ユーチューブやインターネットを使って誰でも何十億人に向かって発信することができ、その中で千人規模のファンを見つけられるということです。 自分がクリエイティブではないと思っている人でも、これからできるテクノロジーによってそうなれるのです。
次のインターネットは、ミラーワールド
ミラーワールドとは、イェール大学のデビッド・ガランター教授が最初に広めた言葉です。ミラーワールドでは、スティーブン・スピルバーグ監督の映画『レディ・プレイヤー1』に出てくるように、現実の世界の上にバーチャルな世界が覆いかぶさることになります。
ミラーワールドの最も基本的な説明は、「現実世界の上に重なった、その場所に関する情報のレイヤーを通して世界を見る方法」というものです。VR(仮想現実)は外界が見えないゴーグルの中でのバーチャルな世界ですが、ARは、スマートグラスなどを通して現実世界を見ます。すると現実の風景に重なる形で、バーチャルの映像や文字が出現します。
例えば、スマートグラスをつけながら歩くと、ある場所で、目の前にどちらに行けばいいかを示す青い矢印などが出てくる。もしくは何かのキャラクターが出てきて前を歩いて街をガイドしてくれる。また友人が事前に残したメモや、何かの広告などの説明が出てくる。彼らが以前に来たときに、あなた宛てのメモを残していて、そこにそれがずっと置いてあるといった具合です。 面会した人の胸元にバーチャルな名札のようなものが浮いて見えて、名前などを教えてくれる、といったことも考えられます。
空間に手をかざしてさっと振るようにスワイプするだけで、時間をさかのぼってその場所に以前にあったものを呼び出せる。あなたが東京の街を歩いているとして、そこに百年、二百年前の東京の街角の姿を選んで重ねて見ることができる。スマートグラスに搭載されたAIに「ここは百年前にどんな感じだったか」と尋ねればいいのです。
ミラーワールドとはある意味で、三次元空間に時間の要素を加えた4Dの世界であるとも言えるでしょう。
世界中のどこにでも、実物と同じサイズのバーチャルな「デジタルツイン」が存在していて、スマートグラスをかけたときだけ、実物の上に投影されるというアイデアもあります。そうした場合に使われるスマートグラスは、ある意味スマホの次に来るもので、タブレットをいつもポケットに入れておくのではなく、それを身につけて画面を表示するウェアラブル装置として使います。
- SNSに続く「新たな巨大プラットフォーム」の到来
ミラーワールドとはつまり、世界が機械によって認識できるようになる、ということです。第一のプラットフォームであるインターネットは、世界中の情報をデジタル化し、検索可能にして答えを出せるようにしました。それこそが、われわれがいまも使っているウェブというものです。
その次の世代の大きなプラットフォームは、人間の行動や関係性を捉えて、人間同士の関係をデジタル化するというものでした。それは「ソーシャルグラフ」と呼ばれ、機械が人間関係を認識できるようにしたもので、人間関係や行動に対してAIやアルゴリズムを適用できるようになりました。第二の大きなプラットフォーム(ソーシャルメディア、SNS)の出現です。
そして、それに続く第三の大きなプラットフォームが、物理的な全世界をデジタル化したもの(ミラーワールド)です。現実の世界や関係性を検索し、それを利用して新しいものを生み出せるよう、AIやアルゴリズムを適用するものです。その優れた点は、それらを見ることができるだけでなく、対象がデジタル化されているので、機械がそれらを読めるということです。
- セマンティックウェブはIoTの時代には、チップを全てのモノにつけるのが難しいため上手くいかなかったが、AIoTの時代にはカメラとマイクのみで現実空間を認識できるため、初めてうまくいくようになった
似たような試みとして、われわれはかなり前から、モノのインターネット(IoT)についても論議してきました。IOTは、非常に小さなチップを付けたラベルを、すべての瓶や椅子や本に貼ると、それらが無線でインターネットにつながり、電力も供給されるという仕組みでした。しかし物理的な形で接続するのは難しく、これまで長いこと、意味的な関係を定義できるインターネットとしての「セマンティックウェブ」は不可能と言われてきました。そこで、それよりも画像などで現実の空間にあるものを認識して、すべてのものをセマンティックに接続する方が上手くいくということになったのです。
例えば、スマートグラスをつけて、セマンティックウェブの世界にいたとします。そこで机を見ると、水の入ったコップがあったとします。それを見る行為によって能動的にコップが検知され、この世界のマッピングがやり直されます。そしてその結果は、具体的な配置を知っているAIに報告され、AIはコップを個別に分離したうえで、そこにコップがあると判定するのです。 私はコップが机の上にあることに気づき、先週からずっとそこにあったのと同じものと理解し、それを動かせば何かが起き、それを持ち上げて相互作用が起きる。AIはそのコップの種類や誰が作ったものかも教えてくれる。 ですからこのコップはある意味、接続されたものになっています。それはチップによる電流によってではなく意味による接続で、その対象が他のすべてのものとの関係において位置が決まっており、その意味付け(位置付け)はAIを介して行なわれます。 基本的にAIが私の部屋を覗いている形になり、個々のものを認識し、ブランド名や製品番号まで認識していて、いつそれがこの家にやって来たのか、どのように販売されたのかと、それが何かを実際に知っているのです。現実的にそれは、電池の入ったチップを介して電気的にもの同士がつながるという形ではなく、意味的なつながりなのです。
つまりセマンティックウェブとは、世界が構造化されて意味的につながっていることを指す言葉なのです。 私が部屋を横切っていると、「いまは歩く動作が行なわれている」という、ある種の理解がウェブ上に発生するのです。 ARはこうしたセマンティックな世界への道筋を付けてくれるものですが、それを実現するためには安価で 優秀なAIがどこにでも存在していることが必要になります。 こうした、情報の意味までを扱えるセマンティックウェブの世界になれば、AIがいま目にしているものの材料や人の名前を教えてくれることになります。
副次的効果を予想するのが最も難しい
SFの大家、アーサー・C・クラークはこのようなことを言っていました。「オートメーションを想像するのは非常に簡単だ。すべてが自動化される、例えば馬車が自動車になるというようなことを想像するのはいとも簡単なことだ。しかし、オートメーションによって真に重大なインパクトがもたらされたのは、車の登場による副次的効果だ。例えば、道路の渋滞、あるいはラッシュアワーの発生。あるいはドライブインスタイルの映画館……そういう副次的な効果、つまり最初の導入から波及していくものを想像するのが難しいんだ」と。
Agent of Thingsの未来
グーグルのような大きな敷地を持つ会社で、スマートシティのような取り組みをすることもできるでしょう。広い場所にいくつもビルが建っており、従業員を合法的にモニターできます。私としてはそういう展開の方に可能性があると思っています。 従業員は自分がモニターされていることを知っており、会社は従業員がどういう時間の使い方をして、どこに行っているかを合法的に監視できます。しかし、もちろん従業員がそうした手法を認めていなくてはなりませんし、彼らがそれでも満足して快適に仕事ができなくてはなりません。 多くの従業員にとっては、まだカメラが四六時中彼らを見て評価しているのは気分のいいものではないでしょうね。効率や生産性を上げるために人々をモニターすることは理にかなっていますが、それを従業員に対してやるのはどうかということです。
アマゾン・ショップ(アマゾンのリアル店舗) では、商品をただ選んで店外へ持って出れば支払いが自動的に済むというシステムになっているので、そうした方式がいいのではないかと思います。顔認識などを使って、私の口座から引き落としてもらえばいいのです。現在のクレジットカードは番号が知られて悪用される場合もありますが、これからのサービスは、どれもそれよりはましなものになるはずです。
Financeの未来
先日若い学生が私の元へやって来て、自分の人生を商品化するという話をしていました。証書を販売して自分の将来の収入を売るのです。いま十万ドルとか百万ドルを投資してくれたら、一生涯X%払いますという話です。それはなかなか面白いアイデアで、どれだけ稼げるかにかかっていますが、もしこの学生が将来のビル・ゲイツだったらすごい話になりますね。