ソースネクストの松田氏が2019年に書いた本
ポケトークの強み
- 独自Deviceだからこそ担保できる入力音声の音質
「スマート留守電」でわかったのは、 翻訳の精度を左右する音声の聞き取り能力を上げるには、入力音声の音質が重要 だ、ということでした。もっと具体的にいえば、スマートフォンのマイクでは騒がしい場所では十分に聞き取れず、結果として適切に翻訳されません。もちろん、普通の用途であれば、そのレベル以上にマイクを進化させる必要はないのですが、翻訳の用途には十分とはいえないのです。 専用機をわざわざ作らなくても、スマートフォンのアプリで十分じゃないか、という声が今も聞こえてきます。ただし、このマイクの精度に難がある限り、スマートフォンではうまくいかないことに気づいていました。 同じ翻訳エンジンなのに、ポケトークとスマートフォンで精度が違う、といわれるのは、マイクが違うからです。騒がしい場所でも、専用機ならクリアに言葉を聞き取ることができます。
- Kindleのような専用機のメリット
専用機にしたヒントは、アマゾンのキンドル から得ました。同じように「専用機」としてのこだわりを持って作られていて、発売から 10 年以上になりますが、徹底して読むデバイスとして進化しています。 キンドルは、とにかく「読む」ことに特化した仕様になっています。目は疲れないし、明るいところでも暗いところでも読めます。辞書機能でわからない単語の意味を調べたり、マーカーやメモの機能も便利に使えて、電池の持ちもいい。キンドルにしかできない読書体験を作っています。
- スマホは人に見せたり、貸したくない
スマートフォンを翻訳機として使うのは、現実的ではないと思っています。そもそもプライバシーの塊であるスマートフォンを、人に見せたり渡したりするのは、かなり抵抗があるのではないでしょうか。だから、ポケトークはスマートフォンとは別に翻訳専用機として進化させていくべきだ、と考えました。
- 初号機が11日間で150億円の売上
2017年 12 月 13 日、「ポケトーク」の記念すべき1号機を発売しました。売れるとは思っていたものの、なんと初期生産数がわずか 11 日間で売り切れてしまいました。最初の生産台数を控えめに設定はしたものの、改めて、AI通訳機のニーズの強さを実感した瞬間でした。 その後も快進撃は続き、「ポケトーク」は約1年半で累計出荷台数 50 万台の大ヒット製品 となりました。1台当たり約3万円という安くない価格帯の製品で売上 50 万台というのは、おそらく衝撃的といっていいと思います。
プロダクトは国境を超えられる
ある確信めいた感覚も持っています。それは、 日本の企業もプロダクトなら成功しやすいのではないか、ということです。サービス系はやはり難しい。あのウォルマートですら、日本では苦しんでいます。サービス・流通系を異国で根付かせるのは、やはり容易ではありません。 でも、 ソニーやトヨタ自動車が成功したように、プロダクトだけは国境を超えられる のではないか、と思っているのです。プロダクト以外で成功する可能性もなくはないでしょうが、私はここでは定石を採りたい。プロダクトだけは、国境を超えられるわかりやすい方法なのではないでしょうか。
理想は、ウォークマンを出した時代のソニー です。日本企業で、最も世界に広まった最高のブランドです。世界に出ていく、というときに、私の中にはソニーのイメージがあります。あのときのソニーにできたのであれば、現在の日本企業にもできないわけはないのではないか、と考えています。 ソニーは、さまざまなプロダクトを出していましたが、その象徴がウォークマンでした。そのウォークマンに匹敵する成果が、「ポケトーク」なら実現できるのではないか、と考えているのです。
社長自ら直接顧客に接する
英語のソフトを日本語にローカライズ(現地に合わせた翻訳かつプログラミング)し、日本で販売することから始まったソースネクストのビジネスですが、最大の問題はそれを「どうやって売るか」でした。私はエンジニア出身ですからプログラミングの技術は持っていましたが、営業を一度もやったことがない中で消費者向けにソフトを売るなんて、いったい何をどうすればいいか、見当がつきませんでした。
私は大胆な行動に出ました。秋葉原に直接行って量販店に置いてもらい、直接お客さまに売ればいいのではないか、と思ったのです。
以降、 平日は新しい製品のローカライズのためのプログラミングをし、休日には小売店の店頭に立って接客する日々 が始まりました。 おかげで、わかったことがあります。それは、最終消費者であるお客さまのニーズがどこにあるのか、です。
それよりも、私は 店頭でお客さまの真の声が聞きたい のです。だから、店頭に立っているときは、「社長」であることは隠しています。しかも、なるべくお店の法被を借りて着るようにしています。そうすると、お客さまからは、まさかメーカーの社長とは思われません。だから、本音で話してもらえます。
きちんと お店に来ているメーカーは、やはり売り場でも強い ということ。ああ、やっぱりこの会社は来ているな、と思うことがたびたびでした。
社会の役に立つものは高確率で売れる
私は当時 31 歳でしたが、これはまずいことになる——と危機感を持っていました。これからパソコンがビジネスにも浸透し、メールのやりとりも当たり前になる。そんな中で、おぼつかない手つきでキーボードを打っていては、日本は世界に置いていかれる。コミュニケーションがまともにできなくなる、と思ったのです。だから、「特打」は日本のために作ろう、と考えました。これからの日本のために、必須のソフトだ、と。 このとき改めてわかったことは、 お金儲けに関係なく、社会のためにやろう、と考えたものは、かなりの確率で売れる ということです。
大幅値下げ戦略で売上を伸ばす
実際、そう説明をすると、納得していただけるようになりました。要するに、 数が多く売れて総額で儲かればいいはず です。たくさん売れるものを作ればいい。それこそ5分の1に安くして 10 倍売れたら、これまで以上に儲かるわけです。
1万円のものが1000個売れるより、1980円のものが1万個売れるほうが、はるかに実入りは大きい わけです。
この戦略は、ソースネクストにとって、いわゆる「王手飛車取り」(将棋で最も重要な駒である王将と次に重要な飛車の両取りを仕掛ける攻め手)になった と思っています。「王手」とはお客さま。「飛車」は競合他社。競合他社を戦慄させ、お客さまに強いインパクトを与えて喜んでもらうことのできた取り組みでした。
ラインナップを大量に増やす
そこで目標に据えたのが、 一気に100タイトルを揃える ことでした。社内で「100タイトルプロジェクト」を作り、「1980円で100タイトル出します」と発表もしました。1980円という価格も衝撃を持って受け止められましたが、100タイトルという数字も、大いにインパクトがあったと思います。
まず取り組んだのは、日本でソフトウェアを販売している会社のリストを入手し、500社以上に片っ端から連絡を入れることでした。「御社のソフトを1980円で売らせてもらえませんか」と電話をかけまくりました。
ラインナップがだんだんと出揃い始めたあるとき、私がヨドバシカメラの店頭に立って販売していると、あるお客さまにこんなふうに叱られたのです。 「いくら1980円でも、欲しいソフトが全然ないよ」 今でもはっきりと覚えています。私はヨドバシカメラの法被を着て売り場に立っていました。「では、何があればいいですか」と単刀直入に尋ねてみると、即答されました。 「ゲームだよ、ゲーム」 なるほど!と思いました。
卸を通さずに量販店と直接契約
なぜソースネクストだけ量販店との直接取引を実行できたのか。 一つは、量販店との間に資本関係を作っていたことです。株式を買ってもらって出資してもらっていれば、単なるソフト会社と量販店との取引関係だけでない、良い関係が作れる、と私は考えていました。 最初にヨドバシカメラさんに出資してもらったのは1999年ですから、直接取引が始まる5年前のことです。その効果を狙っていたわけではありませんが、 直接取引するに当たって、資本関係のおかげで交渉がスムーズだった ことは間違いないと思います。
店頭とECの二刀流
振り返れば、 流通ルートをリアルな店舗とeコマースのどちらかに絞ったソフトウェアの会社は、うまくいかなかった、というのが私の印象です。量販店だけでも利益率が低くなりがちである一方、eコマースだけに絞ってしまった結果、店頭での露出が減り、ブランド力が落ち、お客さまにリーチできなくなった会社も少なくありません。
スマホ&クラウドシフトへの乗り遅れ
当時、パソコンからどんどんCD-ROMドライブがなくなっていく動きが進んでいました。それまでパソコンソフトといえばCD-ROMが主流でしたから、その対応策を考えていく必要がありました。 シンプルにダウンロードする形にすればよかったのですが、私はウェブ経由でなくモノを介する形にこだわってしまったのです。ダウンロードは「よくわからない」「トラブルが起きそうだ」と抵抗感のあるお客さまもいらっしゃるし、ダウンロード以外の選択肢を作ることで他社との差別化にもなる、と考えたのでした。 その解決策は、CD-ROMの代わりにUSBフラッシュメモリを使うことでした。
売れれば売れるほど、赤字が積み上がります。 売れても赤字が拡大する。それまでに経験したことのない事態 でした。
不況はいつ来るか分からない、自己資本を厚くする
資金を調達できるタイミングで、自己資本を厚くすることの重要性を痛感 しました。 同時に、上場時に十数億円しか資金を調達しなかったことも強く反省しました。東証一部への指定替えのときもまったく増資しませんでした。本当に未熟だったと思います。 私は、株の希薄化を恐れて、上場時にほとんど資金を集めなかったのです。自分の持ち分が減ることに対して、恐怖感がありました。 しかし、 会社が厳しい状況に陥ったら、キャッシュと自己資本がすべて ということが身に染みてわかりました。将来何が起こるかはわかりません。一寸先は闇。だから、業績が良いときに、きちんとキャッシュと自己資本を増やしておかないと危ないのです。これは、大きな学びでした。
原点回帰
振り返ると、2006年に上場したあたりから、あまり私自身が店頭に行かなくなっていました。 上場して傲慢になっていた のだと思います。 創業以来、あれほど店を回って、売り場に立って、本当にたくさんのヒントをもらっていたのに、それができていなかった。原点に戻り、店頭に戻ることにしたのです。 3年で1000店というのは、振り返ってみても、相当な数だったと思います。年間300店強です。土日のほとんどは、レンタカーを借りて、お店回りに使っていました。 でも、1000店も巡ったことで、見えてきたものはやっぱり大きかった。すべての基本はお店にある、と改めて思いました。
ソースネクストらしいプロダクト
ソースネクストが サブスクリプションのアプリを出すのであれば、ソースネクストらしいものでないといけない と思っていました。 便利で、役に立って、しかも驚きがある。そういう使い勝手がいいものこそ、私たちの製品のポリシーなのです。そしてサブスクリプションで、なんとなくお客さまがお金を払い続けるようなサービスではなく、一度使ったら、なかなか手放せない、満足度の高いサービスを作ることができました。
自社開発した留守電アプリからポケトークに繋がった
この留守電のアプリは、自社開発でした。おかげで、試行錯誤をして、いろいろなことがわかりました。特に驚いたのは、聞いた日本語をテキストにしていくAIの精度が、極めて高くなってきていることでした。 ただし、すべてのエンジンがそうかというと、オフラインの聞き取りエンジン、つまりクラウドでないエンジンは圧倒的に精度が低かったのです。逆にいうと、クラウド上の聞き取りエンジンはとんでもなく精度が高くなっていました。
MI制度
2011年 10 月に始めた、新しい取り組みがあります。ソースネクスト社内では「 MI制度」と呼んでいます。「マーケティング&イノベーション」を略して「MI」 です。社員のみんなに、マーケティングとイノベーションのアイデアをください、とお願いしたのです。 当社ではもともと、社員全員の情報を共有するためにメールで日報を出してもらっていましたが、その冒頭に マーケティングとイノベーションのアイデアを書いてもらう ことにしたのです。
送られてきたアイデアを見て、私がいいな、と思ったものには返信をします。リプライするときに印を ㏄ に入れるのですが、これがポイントとして貯まっていく。「笑点」でいうところの〝座布団〟です。 そして 毎四半期、MIポイントの「打率」で優秀者を上位から発表 します。
家電量販店を訪問して状況報告をくれたMIには、必ずMIポイントを進呈 しています。理由はシンプルで、社員には売り場にどんどん足を運んでほしい、と思っているからです。 MIを始める以前、社員旅行の帰りのバスが新宿駅西口に着いたことがありました。新宿駅西口といえば、ヨドバシカメラやビックカメラなど、量販店がひしめくエリア。「せっかくなので、量販店を見ていこう」という社員もいるだろうと思っていたら、みんなまっすぐ駅に向かって帰ってしまいました。 これは、私にはショックでした。 売り場は、売上、利益を生み出してくれる源泉 です。社員全員の給与を含めてすべてのお金は、ここからまかなわれているのです。営業やマーケティングの担当者だけがお店に行けばいいわけではない。そうでない社員こそ、お店に行く気持ちを持ってほしいと思っていました。この出来事が、MIを始めるきっかけにもなりました。
この MI制度が会社を変えた、と私は思っています。全社員が今は130人強。常時、アイデアを提案してくれるのは3分の1から半分くらいですが、それでも毎日 40〜 60 通くらいに目を通しています。いずれも、 社員が最前線で実感していることやそれぞれの感性で思いついたアイデア です。
アイデアが上がってきて、動くべきときには即、組織で動きます。中でも特に素晴らしいアイデアは「スーパーMI」に選出され、毎朝全役員が出席する戦術会議の議題になり、討議します。 明日や1週間後にやるのではなく、その日のうちに即実行 します。なぜなら、そのほうがお客さまも喜ぶし、アイデアを出す社員も、出しがいがあるからです。
端的にいえば、MI制度は、こういう飲み屋での話を社長に直接ぶつけられる場です。しかも多くの会社では、上司に言っても、その上司が自分の手元で止めてしまったりします。でも、MI制度では社員全員に見えていますから、握りつぶすことはできません。 飲み屋のグチには、意外に鋭いものもたくさんある と私は思っています。それを経営に反映させない手はない。MI制度は、それができる仕組みなのです。
アメリカに住むことの重要性
- レジェンド起業家も普通のきちんとした人
世界の 大成功者とは、どんな人たちなのかを間近で見ることができた からです。そして、間近で見なければ、絶対にわからなかったであろうことも知りました。 端的にいえば、「普通の人だった」 ということです。近所ですれ違ったら、ごく普通のきちんとした、良い人です。でも、こういう感覚を得ることは、ものすごく重要だと思います。 日本では、起業で大きく成功しようとすると、経営者として大変なカリスマでなければならないようなイメージがあるのではないでしょうか。ものすごい独特のオーラを持っている。正直、とてもあんなふうにはなれない、と最初から尻込みしてしまう人もいるのではないかと思うのです。 しかし、シリコンバレーに住んでみて、すぐ近所に住んでいるラリー・ペイジさんはもちろん、たくさんの起業家に会って感じたのは、そんな尻込みは必要ない、ということです。 ごく普通のきちんとした人が、とんでもない成功を成し遂げている からです。
- 長期滞在だからこそビジネスが進む
翌2011年、私は家族で2週間、シリコンバレーの少し南にあるサンタナロウに滞在する機会がありました。家族旅行でしたが、仕事のアポを入れていたら、相手の対応がまるで違ったのです。たった2週間の滞在でも、「来週も会えます」と言うと話がつながる。 数日で帰る出張とは相手の受け止め方が違う、ということがわかったのです。
- ビジネスはホームパーティーで進む
アメリカに住んでみて改めてわかったのは、 ビジネスはホームパーティーで進む ことが多い、ということです。その意味でも、家族で移り住まないと意味がありません。子どもも交わると、さらに親しくなれます。大人の年齢を聞くのは御法度なアメリカですが、子どもの年齢は必ず聞かれます。
- 直接会うことの価値が高い
いつどこで会いたいのか、まできちんと書くことです。 先方のオフィスで会いたい、というと、相手はほとんど断りません。アメリカ人にはフレンドリーな人も多いので、「よく来てくれた」となり、好印象を持たれます。 それと、もう一つ 重要なポイントは、相手のトップだけに会おうとしない ことです。アメリカの場合は権限委譲が進んでいるので、トップでなくてもサインをする権限を持っています。 こちらがトップで相手はトップでない人でも、私はきちんと尊重します。担当者レベルでもどんどん会う。トップ同士でなければ話にならない、なんて空気は醸し出さない。そうすると、相手も喜んでくれます。
交渉はしつこさと粘り強さ
交渉で気をつけていることは、「これを決めないといけない」となったら絶対にあきらめないことです。実際、多くの会社から私は「 本当に呆れるほどしつこいな」と言われてきました。 粘って粘って、あきらめない のです。 相手のオフィスにどんどん行く。毎日、行くこともありました。単なるミーティングよりは、 少しでも多く話す機会が持てるランチのほうが効き目がある ので、ランチを3日連続でとったこともあります。 「Dropbox」のディールでは、 30 回は通いました。担当者と何度もランチをし、CEOにも会いました。これほど訪問回数を重ねたのは、先方の担当者が何度も代わった影響もあります。 アメリカでは、社員が転職するのは日常茶飯事 ですから、担当者が代わった途端、途中まで進んでいた交渉が、振り出しに戻ってしまいます。それでも、あきらめてはいけません。ひたすら通い続ける。前任担当者は興味を持ってくれていたのに、次の担当者は興味がない、などということもあります。それでも通い続ける。
トップが社員を見ていることを伝えるための施策
アメリカに渡ってから始めたものとしてもう一つ、「誕生日カード」があります。日本を離れて、社員と疎遠にならないよう何かしたいと思って始めたことの一つが、 社員一人ひとりの誕生日の月に、手書きの誕生日カードを書く ことでした。
社長がしっかり社員を見ていることが伝わります。やはり トップに自分の仕事ぶりを見てもらえていないのは一番ショック だと思うのです。私自身がそうでした。会社員時代、社長どころか、役員と話したこともありませんでした。
カードの冒頭には、必ず相手がいくつになったのか、年齢を書いています。それは、未来にこのカードを見返すことを想定しているから。書いている日付からわざわざ引き算しなくても、ああ、何歳の頃の私はこんなことをしていたんだ、とすぐにわかるからです。
実力主義で若者も登用
ソースネクストを作ったとき、組織のルールとしてはっきり意識していたのは、 自分が会社員時代に経験したイヤなことはできる限りなくしたい、ということでした。自分の理想の会社は、自分で作るしかない、と考えたのです。
だから起業したとき、究極的な実力主義を敷いて、 20 代の役員も出る会社にしたい、と思いました。
徹底した実力主義の会社にするために進めたのが、自由でフラットなカルチャー作り です。そのために、まずは「さん」づけ文化を徹底しました。「さん」づけ文化は多くの会社が取り入れていますが、それは上司に対して役職で呼ばずに「さん」づけする、というものがほとんどです。 そうではなくて、 上司が部下を呼ぶときに「さん」づけすることを徹底 させたのです。呼び捨てに絶対にしない。「くん」づけも「ちゃん」づけも不可です。
- さん付けにすると、言葉がきれいになる
もう一つ、呼び捨て文化をやめたかった理由は、言葉が汚くなるからです。 呼び捨てにすると、それに続く言葉も「松田、なにやってんだ」という命令的で威圧的な口調になると思いませんか。怒鳴っているように聞こえる。これがまた、社内を萎縮させます。これを「さん」に変えると、「松田さん、なにやってんだ」とはなりません。
社内がフラットになると、「Aという社員を引き上げると、Bという社員は居心地悪くなって辞めてしまうかもしれない」などと余計なことを考える必要がなくなります。そういう 年功序列に気を使い始めると、本当の実力主義は実践できない のです。
会社員にとって、最も腹が立つのは「なんで、あんな人が部長をやっているんだ」というような、ふさわしくない人が上司にいる状態かもしれません。そんな納得しがたい昇格・昇進も、ソースネクストではなるべく起きないようにしています。 成果の高い人が昇進できないことと同様に、成果が低い人が昇進するほどおかしなことはない からです。 評価と報酬も連動 していて、等級と評価で報酬は決まります。等級が上がれば、基本給も上がります。インセンティブ・ボーナスは経常利益から総量を決めて、等級と評価に応じて配分しています。
- 純粋に実力だけで評価す
強豪の野球部は、1年生のときから休まずにずっと辛い練習をしていますから、監督も情にほだされれば「3年生を出してやりたい」と思ってしまいます。でもそこで温情に走らず、本当に実力のある選手をレギュラーに選出できるかどうかが、真に強くなれるかどうかの分かれ道です。野球で秀でた人間は、年齢問わず突出しています。そういう選手を、1年生や2年生からきちんと使うチームは強い——つまり実力主義が徹底しているといえます。会社も同じだと思います。
世界一エキサイティングな会社になる
ソースネクストのビジョンは1996年の創業時に、「世界一エキサイティングな企業になる」と定めています。 この「エキサイティング」の一つは、「多くの価値=世界に対する大きなインパクトを生み出す」ことです。では、「価値」とは何か。数字で測るのは難しいのですが、数字で一番近いのは、時価総額だと考えました。また、時価総額というのは、社会への貢献度、影響度とおよそ比例している、と思います。 そしてソースネクストでは、 企業としての価値の総量と、それを従業員数で割り戻した一人当たり時価総額の両方を重視 しています。総量は社会に与えられるインパクトの大きさにつながりますし、一人あたりの時価総額は、一人当たりの社会に対する貢献度となり、高効率であることはもちろん、社員一人ひとりのやりがいの高さにつながると考えるからです。 まず、一人当たりの時価総額から見ていきます。