Okta共同創業者フレデリック・ケレスト氏が書いたスタートアップの創業から上場までの指南書
創業者
Founderに必要な能力
- 不確かな状況でうまくやる力
スタートアップを経営するとは、重要な決断を下すとき、思うようには情報を得られないということ
ほとんどの場合、推測に頼ることになる。はっきりしたことがわからないと心配になるだろうか?
- 売り込む力
スタートアップの経営者は毎日、四六時中、売り込むことになる
- 人付き合いを上手くやる力
彼・彼女らは人付き合いがうまい。相手を鼓舞し、モチベーションを高めるすべを心得ている
- 自分で自分を律する力
創業者に上司はいない
- エネルギーと推進力
会社を設立するとは、1キロを約4分20秒のペース 1 で走るマラソンだ。常に走りつづけなくてはならない
- やる気を出させる力
- 自分を信じる力
私はいつも「自分に賭けている」と言っていた。
もちろん、最悪な時期にはそんな自信も揺らいだ。それでも、問題に1つずつ取り組んでいけば、きっと道は開けるといつも信じていた。
- 回復力
毎日顔面を殴られても、何度でも立ちあがることができるだろうか? それとも最後にはノックアウトされてしまうだろうか
夢想家と実務家
1人がすばらしいアイデアを思いつき、少なくとももう1人がそれを実現するという創業チームだ(後者はよく「実務家」と呼ばれる)
創業者は若き天才ではない
たいてい、創業者とは、自分のアイデアを5年、10年、15年とあたためていた人だ。起業するころには、彼らの能力は私たち投資家でさえ想像もできないような高みに達している。
事業アイデア
- 良い事業というだけではなく、自分に適しているかどうかも考える
すばらしいアイデアを思いついたからといって、そのビジネスが 自分に適しているとはかぎらない ということだ。 しっかり自己分析しなくてはならない。 起業とは厳しい仕事だ。 よくても、何年も疲弊する日々が続く。 最悪の場合、回復力も楽観性も決断力も貯蓄も使い果たし、あとには何も残らない。 そのため、 どんなアイデアでも、目の前のドアがすべてぴしゃりと閉ざされたとしてもあきらめないぐらい大事なものでなければならない。 優秀なエンジニアがいなくなっても、あてにしていた資金調達がだめになっても、大口の顧客を失ってもやり続けられるのは、自分のしていることを心から信じているからだ。
- アイデアはオープンにして、様々な人からフィードバックをもらうべき
チーム
- 自分の限界を知り、任せられるチームをつくる
「重要な仕事をいくつも同時にこなしながら、うまくやることはできない。そんなことができる人はほとんどいない。つまり、きみは専門職の人間を雇う必要がある。しかも、早急に。」
何もかも自分でやってもうまくいかない。成長するにつれて、自分より得意なものがある人材でチームを編成しなくてはならない。これこそ、私が学んだなかで最も深みのある教訓の1つだ。会社で大事なのは1人の人間ではない。大事なのは才能豊かな人が集まったチームなのだ。
- 一人よりも仲間と。
MITの技術経営学部教授で、長年私のメンターでもあるエド・ロバーツは、ハイテク企業の創設チームの適正規模を研究した。 彼は「共同創業者が2人いるほうが1人よりもうまくいく」という。「2人より3人のほうがいいし、3人より4人のほうがよいだろう」が、それ以上になると「多い」そうだ。
創業者間で落ち込んでいないほうがもう1人を励まし、前に進むのを助ける。
- チームの適切な組成タイミングを考慮する
起業して1年から1年半はまず、プロダクトのアイデアを磨き上げ、未来の顧客やユーザーとともにそれを適切なかたちにすることに集中する。そこではMBAをもっている人材の仕事はあまりない。
- 共同創業者の選び方
共同創業者が複数いる会社は、お互いが協力できるとうまくいく。しかし、共同創業者がうまく協力できないことが、スタートアップが失敗するいちばんの理由になる。
1. 信頼できる人間かどうか
2. 意見が対立したとき、大人のやり方で解決し、前進しつづけられるか
3. 相手のことが 好き だろうか
4. その人物は支えるすべを心得ているだろうか
5. あなたと同じぐらい心から会社のことを気にかけているか、ワクワクしているか
6. 共同創業者としてこの人物に疑問を抱く理由はないか(違和感はないか)
- 共同創業者間の株式の分配は「平等に分配すべきと思えるほどに適切な人間を選ぶ」
単刀直入に言おう。かなり特殊な例を除き、みんなで平等に分ければ良い。
共同創業者として選んだ相手は全員すばらしい人物だ。彼・彼女らは会社を成功させるために、あなたと同じぐらい懸命に働くだろう。
- スキルセットが多様なチームで戦う
速く進むつもりなら、それぞれの共同創業者が責任をもつ範囲を決めておく必要がある。
トッドは会社の展望、プロダクト開発を担った。私は営業、会社経営(財務、人事、法務など) を受けもった。トッドには展望があり、プロダクト開発の経験が豊富だった。私には営業と事業開発チームでの経験があった。
- Disagree and Commit
トッドは自分の信じる方向へ進んだ。 悔しかったかと聞かれれば、そのとおりだ。しかし、CEOはCEOである。ほかの会社と同じように、CEOが責任をとり、重大な決断を下さなければならない。投資家はその組織の編成を見て投資をしたのだ。
インテルの伝説のCEO、アンディ・グローブの有名な言葉だが、チームは「賛成しなくても取り組まなくてはならない」。全員が賛成はできないかもしれないが、決断が下されたら、全員が協力しなくてはならない。
資金調達
資金調達に必要な準備
以下の条件が揃って初めて資金調達活動を始めるべき
- 事業
- 現実的なビジネスモデルがあるか?
- 獲得可能な最大市場規模(TAM) が非常に大きい(つまり、10億ドル規模) ので、すぐに自社を10倍に成長させ、できれば100倍も見込める、有望なアイデアがあるか?
- 自分のアイデアがよいことを示す具体的な証拠はあるか? すでに販売しているのなら、売上をけん引しているものを把握しておいたほうがいい。また、潜在顧客から熱心な感想がたくさん届いていることもある。
- チーム
- 創設チームが全員そろっているか? ある企業がそのチームを見て、「ああ、この人たちなら間違いなく実現できるだろう」と口にするだろうか?
- ストーリーと覚悟
- これから10年、この仕事しかしないという覚悟があるか? 休暇もなく、週末もなく、誕生日も忘れ、眠れない夜がある覚悟はできているか?
- 自社がどんな会社で、どうして成功するのかについての物語はあるか? それをすぐに説得力をもって語れるか?
なんとなく資金調達をしない
お金はただ、すでにあるものを増幅するだけだ.
もし万事快調で、順調に進んでいて、運営もうまくいっているのなら、外部から資金を注入すると成長が加速するだろう。 だが、仮に万事不調で、組織は機能せず、根本的な問題を特定していないとしたら、お金が入ってきても問題から逃げつづけるだけだ。問題は解決されず、ただ悪化するだろう。
営業
「顧客が渋々支払うようなプロダクトに長い時間をかけてはいけない。」
-
正直でいることで顧客からの信頼を得る
- 顧客に機能を持って話したりしない
-
パイロット版は無料にしない
スタートアップはパイロット版の運用をおこないたいため、無料での提供を申し出ることが多い。しかし、これをしてはいけない。パイロット版は必ず有料にすることだ。 その理由は、パイロット版の運用が正味では自社の負担になるからだ。そして、顧客が無料でプロダクトを手に入れるとおかしなことが起こる。彼・彼女らはだらだらと時間をかけるようになるのだ。
パイロット版の運用は、プロダクトを実際の顧客の手に届け、機能することとしないことを確かめるリサーチの機会でもある。顧客が使っていないと、フィードバックが得られない。
パイロット版を有料にすると、顧客は使いはじめる。発注書にサインした人物があなたへの支払いの責任を負う。彼・彼女らは上司にはっきりした結果を示さないとならない。
- 相手の話をとにかく聞く
一流の営業パーソンはフェネックギツネのようにふるまう。つまり、人の話をよく聞いて、口数が少ない
- たいていの取引は5回は失敗する
ほとんどの取引は何回か暗礁に乗り上げる。一度だめでもそれで終わりだと思ってはいけない。そういうときはたいてい、顧客にとって何かうまくいっていないところがある。そこを特定しよう。
- 最初の5件の顧客に徹底的に時間を使う
最低でも5社で成功するまでは、新しいプロダクトを完全に立ち上げたと見なさない。
初の5件の顧客に対しては、全力を尽くし、最大限の人員、時間、創造性を割き、あらゆる問題を解決する必要がある。
企業文化
- 企業文化は「リーダーたちの行動」と「会社が報酬を与える姿勢」で決まる
社員はあなたの掲げたことではなく、あなたの行動を見ている
最初の10人の社員で企業文化が決まる、次の90人がそれを固める。
リーダーシップ
- 判断ではなく決断する力
リーダーになると、 絶えず 火中に放りこまれる。必要な情報のほんの一部しかなくても常に決断を下さなくてはならない。
- 矛盾をのりこなす
スタートアップのリーダーは、2つの矛盾したことを信じなくてはならない。
考えられるかぎり到底起こりそうにないこと(10倍に成長するスタートアップ) を信じるほど強い自負心がなくてはならない。
だが同時に、その自負心をいつも問題に組み込まなくてはならないのだ。 会社が成長するためには権限や責任を手放さなくてはならないし、社員の要望のために自分の要望の優先順位を下げることも必要になる。 さらにいちばん重要なのは、同僚、顧客、投資家、メンターたちの言葉に耳を傾けるようにならなくてはならないことだ。 そうすることで、重要な決断を下すためにできるだけたくさんの洞察を得ることができる。
これは繊細なバランスだ。
- 「採用と昇進」は後戻りができない重要な決断
肩書きに値しない人物を昇進させるたびに、チームのほかのメンバーには気づかれる。すると彼・彼女らも、それだけの資格がないのに同じように昇進を期待する。同じように昇進させられない場合、自社の企業文化に疑問をもたれてしまう。
こうした短期的な決断は外部にも波及する。並の人材にポストを与えると、一流の人材を雇用できなくなる。優れた人材は凡庸な人の下で働きたくないからだ(ましてや三流の上司などもってのほかだ)。さえない人物にポストを与えると、本質的に組織全体をだめにしてしまう。
- 言いにくいことを言う、摩擦を恐れない力
生まれつきCEOの人などいない。CEOに求められる能力や資質はかなり奇妙で、不自然なものだ。大事なのはみんなに(厳しい) 意見を伝えることである。
CEOには誰にも好まれない発言をしたり、行動をとったり、誰にも望まれていない方向に会社を導いたりするのをいとわないことが必要だ。
人間は対立を避けたがる。そういうものだ。辛辣な批判はビジネスにそぐわない。だが、リーダーである以上、争いを避けて安穏としているわけにはいかない。問題が起こりそうなときは、それを収拾しなくてはならない。問題を特定しないと、問題は大きくなるばかりだ。無視していると、エネルギー、集中力、リソース、善意、モチベーションといったコストがますますかさんでくる。
- 失敗を公に認める力
失敗を認めると、まわりからどれほど助けてもらえるかがわかって、驚くかもしれない。あなたはすぐに前より感じがよくなる。失敗したことを認めると、まわりに人が集まってくる。
成長
- スピードさえ大事にしていれば、ライバルは気にしなくて良い
「スピードがすべてだ」とズームの創業者、エリック・ユアンは言う。「レガシー企業など気にしなくていい。やつらはのろい。」
彼は、ウェブエックスがまだスタートアップだった1990年代後半に入社した。2007年、同社はシスコに買収され、それから3年後、ユアンは惨めだった。それはどうやら彼だけではなかったようだ。「毎日顧客と話をしたが、誰ひとりとして満足していなかった」そうだ(シスコはその後、プロダクトを設計しなおしている)。 2011年、ユアンは退職し、ビデオ会議用のツールを手がける会社を始めた。これが現在、誰もが知っているズームである。
- 顧客にプロダクトを具体化させる
「私が見てきたなかで、成功するスタートアップはみな最初のアイデアを思いつくが、そのあと、顧客にプロダクトを具体的なかたちにさせる。」
大失敗
- 大失敗はよくあることだと心得ておく
大失敗に備えるためには、心がまえをしておくことが最良の方法になる。まず、それがよくあることで、必ずしも起業家としての資質を問われるものではないと知ることだ。それから、危機に直面したとき自分にできる最善のことは、その時期が起業家人生の途中だと受け入れることだ。気持ちを切り替え、集中を切らさず、前進しつづけよう。
- 創業者の最も重要なただ1つの仕事は「資金を切らさない」こと
創業者にはさまざまな仕事があると思うかもしれない。驚くようなプロダクトの開発。見事なビジネスモデルの発見。優秀な人材の雇用。経営状態のいい会社の構築。 だが、実際には、特に大事な仕事が1つある。これに失敗したら、ほかのものなど問題ではなくなる仕事だ。その仕事とは、 資金を切らさないこと である。
ビジネスにおいて唯一許されない罪とは、資金を枯渇させること
自己管理
取締役会
- 取締役会はアベンジャーズを揃える
各役員にはそれぞれ特別なすごい力がなくてはならない。
取締役会は「発表会」ではない。大事なのはかなり差し迫った重要な問題に対して支援してもらうことだ。
- 取締役会を経験の場などにしない、甘やかさない
創業者は取締役会に幹部を出席させることがある。これには優れた業績に対する報酬の意味合いもあれば、役員と関わる経験を積ませる狙いもある。だが、こういうことはしないようにする。時間が無駄になるし、最も戦略的な課題に集中できなくなる。
- 投票での意思決定など必要ないほどのメンバーを揃える
理屈としては、取締役会は投票で意思決定をおこなう。だが実際には、投票はただの形式にすぎない。しっかりとした人選をおこない、彼・彼女らと協調できていれば全員の意見は一致するはずだ。 上場する前、オクタの取締役会は資金調達計画と株式の譲渡の正式な確認以外では投票をおこなったことがないと思う 4。私たちはだいたい話しあって意思決定をおこなう。これはスタートアップではふつうのことだ。問題を解決するのに投票する必要があるぐらい取締役会が決裂していることに気づいたら、単なる役員の数よりも根本的な問題を抱えていることになる。
- 取締役会には正直になる
会社の状況について、うまくいっているときも難しい状態にあるときも、取締役会には正直になること
- アドバイスをすべて受け入れたりしない。自分を持つ。
アドバイスを すべて 受け入れたかどうかだ。むしろ、そうしていたら危険な兆候である。「CEOより会社について知っている人はいない」とシェリーは言う。「もしCEOが取締役会の言いなりなら、私は心配になる」
上場
- 上場は高校卒業
上場はゴールではない。それは始まりにすぎず、いうなれば高校からの卒業のようなものだ。これからが本番だった。上場にまつわる神話が多すぎるので、上場することがスタートアップを立ち上げる核心のように思われてしまう。売却し、リタイアしてビーチで過ごし、火星にロケットを打ち上げる計画を立てはじめるといったイメージだ。 しかし、それは誤解だ。上場は巨大企業になる道の通過点でしかない。マイクロソフトは上場したとき、時価総額が6億ドルだった。現在は2兆5000億ドル以上だ。スティッチ・フィックスは2017年に16億ドルで上場した。その4年後、時価総額は倍以上になっている。
概算だが、シリーズAにたどり着いた企業のわずか10分の1しか、売却されたり上場を果たしたりできない。そのため、すぐに金持ちになりたいというのがモチベーションの場合、私のアドバイスに従って、ほかのことをしたほうがいい。 実際のところ、本書からたった1つ教訓を得るとしたら、次のようなものになる。 大好きなことを見つけ、 それに意識を向けよう。それが会社をつくることだったら、上場しても変化はあまり起きないはずだ。上場する前もあとも、自社のことに取り組むのは変わらない。